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第14話

「ほう、それは興味深い。いずれゆっくり話をしたいものだな」


「は、拙者ごときで良ければ」


 利三の受け答えに、光秀は胸を撫でおろした。ほんのちょっとした言葉尻も逃さぬ周瑜に、より一層の警戒と注意を心掛けようと、強く胸の内に誓った。


「おう、そうだ。呂蒙殿に……利三殿、もだな。次の軍議にて正式な官位に君らを任命する。間違いなく参加してくれ。これで両名も孫家の将軍の一人となる。一層の忠誠と働きを期待しておるぞ」


 周瑜は思い出したかのように本題を告げ、立ち上がった。


 それを利三が呼び止める。


「拙者は呂蒙殿以外にお仕えする気はございません」


「何も引き離そうとしているわけではない。利三殿の働きも見事と恩賞のつもりで官位を授けたいだけなのだ」


 利三は異を唱えたが、周瑜は一笑に付した。そんな利三を見かねて光秀が声をかける。


「利三、私に遠慮することはない。受け取るがよい。おぬしはその辺ちと堅すぎるぞ」


光秀は満面の笑みを利三に向けた。


「はっ。殿がそうおっしゃるのであれば。周瑜様、ありがたくお受けいたします」


 利三は強張ったような顔つきで、恭しく一礼した。


「互いに互いを思ううらやましい主従よ。では軍議の日取りは後ほど伝える。それまでゆるりとされよ」


 周瑜はそう告げると静かに立ち去っていった。


「ほぅ」


 光秀は気配を感じなくなるまで様子を窺い、深く溜め息をついた。


「利三、すまぬ、助かった」


「いえ。しかし寸分も隙を見せられませんな。今後もお気をつけを」


「うむ。利三も充分に用心せよ」


 二人の会話は夜が更けても続き、その話題はもっぱら周瑜のことばかりであった。



 その翌々日。周瑜から軍議場への案内が光秀に届いた。


 二人はいつも以上に気を遣い、正装に着替えると、軍議場へと足を運ぶ。


 途中、方々から、


「あの方が新たに将軍になる呂蒙様か」

「稀代の戦上手らしい」


といった、噂話が乱れ飛んでいた。


「待っていたぞ」


 軍議場の入り口では周瑜が、男装の麗人と見紛うかのような姿で待ち構えていた。


 周瑜は二人に声をかけると柔らかく笑い、軍議場へと連れ立った。


「この先が軍議場だ。殿を始め、他の重臣たちも待ちわびているぞ」


 そう言いながら、軍議場の扉を開ける。


「呂蒙、利三両名お連れいたしました」


 周瑜の管楽器のような心地よい声が軍議場に響き渡る。孫策以下の将軍らが一斉に入り口の方を注視した。


 正面の一段高い位置にいるのが孫策、両脇には文武の将軍たち。その将軍たちの間を、周瑜に連れられ歩いていく。


 好意的な視線を送る者、どこの馬の骨と敵対心を露わにする者、好奇の目を向ける者と多種多様である。


 だが視線だけで無駄口を叩く者は一人としていない。孫策の下、一枚岩となっている様子が窺える。


 光秀は程よい緊張感の中を悠然と歩いた。簡素で絢爛さのかけらも見受けられないが、それがまた光秀には好ましい。


 周瑜は孫策の階下まで二人を導くと、数歩下がり、二人を前面に押し出した。


 光秀と利三は片膝を着き、臣下の礼をとった。

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