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第13話

「あんな人材がいたとは。江東はまだまだ広いな」


 孫策は今にも身を乗り出しそうなほどの勢いでまくし立てる。


「では殿、戻りますぞ」


 周瑜が諭すような話し方で帰陣を促した。


 好機嫌の孫策が無茶を言い出さないうちにと、半ば厄介払いのような形であった。


「次の軍議は呂蒙に参加するよう伝えておけ」


「はっ」


 孫策は重臣らと帰路に就くなり周瑜に命じた。周瑜は返事はしたが、他の将らのように喜色満面ではなかった。


(やはりあれは呂蒙ではないな。戦い方や戦術が老獪じみている。戦機、戦局の読みが的確なのにも熟練さを感じる。何者だ?)


 周瑜は皆とは逆に見事すぎる戦い方に不審感を抱いていた。


「公瑾、何を考え込んでいる?」


「ん?いや、何でもない」


「軍師ならば顔色を隠す方が良いぞ。呂蒙が気になるか?」


「やはり隠し通せないな。気になるが、君を守りたいと言った時の彼の言動は本物であった」


「まあ、ごちゃごちゃ考えずに使える人材は使えば良い」


「それが安易だと言うのだ」


「だが俺を守るという意志は感じ取れるのであろう?ならば臆することなどない」


 周瑜は孫策の言も然りと頷いた。


「だが公瑾がそこまで案ずるのならば、なにかあるのやも知れぬな。呂蒙は公瑾の直属に致そう」


と、周瑜の肩を叩き、帰陣していった。



 本陣へ戻ると、周瑜はすぐに呂蒙へ召集の指示を与えた。


「呂蒙只今到着致しました」


 先ほどまで賊と戦っていたにも関わらず、光秀は清潔で息も乱さず、待機していたかのような正装で現れた。


「呂蒙、君を私の直属の配下とし、孫策様の護衛を命じる」


「はっ。ありがとうございます。しかし……なぜこうもすんなり?」


 光秀は喜ぶよりも先に、簡単に自身の要望が通ったことに疑問を抱いた。


「先の戦、孫策様と重臣らで拝見させてもらった。大した手並みであった」


 光秀は心中ではなるほどと納得したが、表面上は恐れおおいといった風を装った。


「見られておりましたか、お恥ずかしい」


「そんなに謙遜することはあるまい。ところで、君は余程戦い馴れしているようだが、どこでそのような経験を積んだのだ?」


 周瑜は笑いながらも切れ長の鋭い視線を光秀に投げかけていた。


(やはり周瑜は侮れない)


 光秀は周瑜の眼力に脱帽しつつも、次なる返答を明晰な頭脳で考えていた。


「経験はそれほど。幼少の頃より、近所の子供らと合戦遊びをしておりました。それに私の足りない部分は、後ろに控える利三が補ってくれますゆえ」


 周瑜は視線を光秀の後ろにそびえ立つ厳つい男に向けた。利三はぺこりと軽く頭を下げる。


「としみつ?変わった名前だな。漢民族ではないのか?」


 光秀は顔には出さずにいたが内心、しまったと焦った。


「拙者、出自はここより遥か東方の島にございます。浜に流れ着き、気を失っていたところを呂蒙殿に助けられ、以後君臣の契りを結んでおりまする」


 利三は機転を利かせ、光秀の窮地を救った。


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