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第12話

 同じような意見は重臣たちの中からも洩れ聞こえた。軍を率いるというのは地位や肩書きさえあれば簡単なように思われがちである。


 だが、ただ敵に突っ込むだけでも、その隊を率いる武将への篤い信頼や忠誠心などの統率力が求められ、それが薄い軍は敵に到達する前に瓦解することもある。


 孫策の臣たちにも心当たりがある者もいれば、当事者もいる。


 そのため軍事行動の経験の薄い若年武将の部隊では、それほどうまく隊を動かせまいと見ていた孫策一同は、呂蒙の老練じみた采配に舌を巻いていた。


 隊が進むにつれて、数々の殺気が表だって感じられる。呂蒙隊も、孫策らも武器を抜き臨戦態勢をとっている。


「索敵を怠るな、必ず近くに潜んでいよう」


 光秀は部下に索敵の指示をくどいほど出し、また分散している利三隊にも集合の早馬を走らせた。


「呂蒙様、あちらに五名ほどの不審者が駆けていきます。追いますか?」


「いや、追わずともよい。また我らを分散する囮であろう。放っておけ」


 光秀は部下に不審者を追うことを禁じ、同じ手は喰わんとばかりに立ち止まって殺気を探っていた。


 そして焦点を絞り、一点を見据えると、再び部下を呼び、耳打ちをしだす。


 指示を受けた兵は素早く馬に跨ると鞭を打ち駆けていく。


 そうこうしてる間に、索敵に出ていた兵らが次々戻り、情報を報告するが、それでも光秀は動かず、遠くを眺めているようである。


 不意に光秀の眉がぴくりと動いた。


「騎馬の者は馬を降り、剣を抜け。槍隊が先陣、弓隊は槍隊の後方にて援護態勢を取れ。残りは遊撃隊だ」


 光秀は下知を下すと、再び遠くを見る様子を見せた。兵らの鼓動が聞こえるかぐらいに緊張感が高まる。


 そして、光秀の見据える先で野鳥が飛び立った。


「よし、槍隊前進せよ。弓隊は矢をつがえよ。遊撃隊は左の林に全速力で駆けよ」


 光秀の声に即座に呼応し軍が動きだすと、同時に右の林の奥から喊声が沸き起こる。


 すると、右の林から、全く武装の統一されていない一団が飛び出してきた。


「槍隊突け!弓隊射て!」


 賊徒らは待ち構えていた光秀軍の攻撃に、無防備に晒され、一人また一人と倒れていく。


 仮にくぐり抜けても、そこには遊撃隊が回り込んでおり、容赦なく切り捨てられていった。


 次第に立っている賊はいなくなり、やがて右の林からは別働隊を率いる利三が姿を現した。


 利三は兵らに周囲の索敵を指示すると、兜を脱ぎ、刀を鞘に戻し、光秀に近寄る。


「ご苦労。見事な勢子であったぞ」


 利三は軽く会釈をし、


「この程度ならば造作なきこと」


と、返した。



 孫策らは一部始終様子を窺っていたが、鮮やかな手並みに皆感嘆し、言葉を失っていた。


 気づくとすでに戦闘は終了しており、別働隊の部隊長と呂蒙が言葉を交わしていた。


「いやはや凄まじい連携ですな。別働隊を率いるあの男も相当な手練れであろうな」


 古参の韓当かんとうが声を発する。


「あの若さでこのような戦術を駆使するとはのう」


 続けざまに黄蓋こうがいが話し出した。


 孫策はそんな会話も耳に入らないほどに目を輝かせ、呂蒙と利三を見つめていた。


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