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第11話

「信用できるし、それだけの能力もあるということだな?」


 孫策が念を押して尋ねた。


「うむ。近々呼んで任命するつもりだが、いくら能力があっても、君が振り回してはなんら意味を為さない。今しばらくは勝手な行動は控えてくれ」


「呂蒙か。どんな奴か楽しみだな」


 周瑜が苦虫を噛んだような顔で諌言するも、孫策の耳には全く届いておらず、まだ見ぬ呂蒙を想像していた。


伯符はくふ!」


 周瑜はたまりかねて、孫策のあざなを叫んだ。


「わかったわかった。ちゃんと考えておる。あまり心配するとその絹のような髪が抜け落ちてしまうぞ」


 孫策は大口を開けて豪快に笑った。しかし周瑜は一抹の不安を拭いきれず、とても笑える心境にはなれなかった。




「呂蒙様、怪しい集団を発見しました。見つかったことに気づいたのか、方々に逃げております」


 見回りをしている光秀に異変の報告が届いた。


「案内せよ、それから本陣へ報告せよ」


 光秀は素早く指示を出すと、案内された先へと急行した。報告はすぐに本陣へと届き、警戒態勢をとり出す。


「追討の将は?」


「呂蒙殿の部隊です」


「早速か」


 周瑜は収集した情報を精査しだし、より詳しい状況を読み取ろうとしていた。


「公瑾」


 同様に報告を聞いていた孫策がふいに周瑜を呼んだ。


「なりません」


「まだ何も言ってないだろう?」


「言わずともわかります」


「ならば止めるな。話を聞く限り危険は薄いと思うのだが。それに呂蒙の働き具合を見てみたい」


「そのような行動を軽率だと言っているのです」


 周瑜の反論に孫策は為す術なく黙り込んだ。


 だがそれも束の間。悪戯を考えついた子供のような顔で周瑜を見つめると、


「ならば公瑾、供をせよ。俺の身は君が守れ」


と、明るく笑い、周瑜の腕を掴み引きずりだした。


「な!?伯符!」


 それを目の当たりにした他の重臣たちも押し留めるが、


「そんなに心配ならお前たちも付いてこい。これだけの臣が揃えば俺の安全は保証されたようなものだろう」


 重臣らは唖然とした。殿に見事嵌められた、と中には苦笑する者もいる。


 こうなってしまっては孫策の言うように、護衛で共に行動するよりない。


「伯符、わかったから、離してくれ」


 孫策は周瑜の袖を離すと、にこりと微笑み、


「よし、では我が身は任せたぞ」


と、周瑜の顔を覗き込むと、意気揚々と先に進んでいった。


「全く困ったやつだ」


 周瑜は立ち上がり、ぱんぱんと埃を払いながら一人呟くと、小走りに孫策の後を追った。さらにその後を重臣たちが遅れまいと追いかけた。



「あれが呂蒙か?」


 茂みに隠れながら小声で孫策が尋ねる。その視線の先には、逞しい馬に跨る若武者がいた。


 細身片刃の剣を抜き、隊の先頭に立ち、部下に次々と指示を出している様が伺える。


「はい」


 周瑜が答える。


「お、動くぞ」


 呂蒙は隊を率いて行軍を開始した。それを見失わないように、孫策一行も移動を始める。


「あの若さで、なかなか手馴れてるな」


 孫策が呟く。

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