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第10話

「はっ。そのため規模などは不明です。孫策様には単独や少数での外出は自重いただきたいのですが」


「うむ、強くたしなめておこう」


「それから、私と配下を孫策様の護衛として傍に置いてもらえないでしょうか」


「それは殿に尋ねてみねばわからぬな」


 光秀は周瑜に孫策への注意の喚起と護衛の任を懇願した。対象の近くにいた方がいざという時に守りやすいためである。


 だが周瑜としても慎重とならざるを得ない。


 確実に信用できる人物でなければ、逆に孫策を危険に晒すことになりかねない。


「では我らは本陣の周辺を見回りしておりますゆえ、ご連絡くだされ」


 光秀はそう告げると、深く頭を下げ、立ち上がり、室を退出しようと入り口に向かった。


「呂蒙殿待たれよ」


 周瑜の後ろまで歩いたあたりで呼び止められた。


「話に聞く呂蒙殿は粗暴……失礼、武に長けるが知力に欠けるとの評なのだが、今の君を観察する限り、とても風評通りと思えぬ。君は本当に呂蒙か?」


 光秀の心臓が大きく鼓動する。だが努めて冷静を装い、動揺を声にも態度にも出さないように耐えた。


「何を申される、周瑜殿。私は紛れもなく呂蒙。風評は所詮風評でしかありませぬ。それで人は測れませぬ」


「確かにな。まあ良かろう」


 これだけの問答で周瑜が納得したとは到底思えないが、ひとまずは難を逃れたことに胸を撫で下ろした。


 そのまま周瑜の下を去った光秀は、そそくさと自陣に戻り、警戒のために軍を動かした。


「利三、変わりはないか?」


 進発したすぐに光秀が問いかける。


「何も。殿の方は如何でしたか?」


「そうか。周瑜はやはり切れる男だ。隙は見せられんぞ」


「承知しました。箝口令を強化いたします」


「うむ。頼む。新兵の身元にも注意せよ」


 光秀はそう伝えると、利三と軍を分けて周辺の見回りをはじめた。軍とはいうが、百人に満たない。


 新兵の補充もしているし現在も進行中なのだが、なかなか集まらず、本陣近くでは大っぴらにはできない。


 来る者は基本的に拒まないが、身辺の調査は徹底的に行うように利三に指示した。



「どうであった?」


 呂蒙との面会を終えた周瑜が戻ると、孫策は椅子から飛び跳ねるように立ち上がった。


「十中八九、偽物であろうな」


 風評で人は測れない、確かにその言葉は理に適っている。だがその風評から受ける印象が大幅に外れているとなると話は変わってくる。


「では刺客か?」


 およそくよくよ悩んだり、消沈することがないのか、孫策は玩具を与えられた子供のように目を爛々とさせ問うた。


「いや、刺客という印象は全くない。むしろ、その目や言葉、態度からは君を守ろうという強い意志が見うけられる」


 周瑜の答えに孫策は頭を掻いた。


「公瑾よ、まだるっこしい言い方をするな。呂蒙は刺客か否か、信に足るか否か、だ」


「軽率だ。君は孫家の頭領であるのだぞ。君の両肩には江南の全てが掛かっているのだ」


 言葉の争いでは武骨な孫策では勝ち目がない。


「ではどうするのだ?」


「呂蒙には君の護衛を四六時中してもらうつもりだ」

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