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第8話

 利三はその頭領の状態を見ると、自ら金棒の間合いの内に入っていった。もらったとばかりに頭領の金棒が振り下ろされる。


 その攻撃は鬱憤を晴らすかのような大振りの一撃で、地面ごとえぐりそうな勢いで叩きつけられた。


 だが利三は、その単純な攻撃を難なくかわすと、隙を逃さず頭領の胴を斬りつけた。


 肉厚の胴であるせいか、致命傷には至らなかったが、身動きを封じるには充分な傷である。


 頭領は膝をつき、斬られた左脇腹を押さえた。


「殿、急ぎましょう」


 とどめは刺さず、光秀を振り返り声をかけると、刀を鞘にしまい、先導するかのように駆けていった。


 賊の群れは頭領が敗れたことで光秀らを攻撃しようとする者もなく、方々に逃げ出している。


 その様を見て光秀も武器を納め、利三の後を追っていった。



 光秀らは呂蒙の向かった方向へと急行する。呂蒙の無事を祈りながらひたすら急いだ。


(無茶をしておらねば良いが……)


 若いがゆえに血の気が多い呂蒙が心配で仕方ない。呂蒙に近づくにつれて、呂蒙の部下の屍が増えていくようであった。


 どの死体も身ぐるみはがされ凄惨な状態で放置されてあり、ますます呂蒙の安否が気になる。


「殿、この先から喚声が聞こえます」


 光秀は無言で頷くと、疲れなど忘れたかのように更に速度を上げた。


 前方の利三が刀を抜く。光秀も呂蒙から預かってある槍を小脇に抱え、即座に敵に対応できるようにした。


 利三が斬り込む頃、ようやく敵が確認できた。


 十数名の浪人らしき男らが周囲を囲み、弄んでいるように見える。


 利三がその内の一角を切り崩した。その先にちらっと見えるのは呂蒙の衣服であった。


「うおぉ!」


 光秀は激した。冷静沈着な男が吼えた。鬼神の如き形相で浪人を払い、あるいは突く。そんな主の姿を見た利三も奮戦した。


 血を浴びても怯まず、次々と斬り伏せていく。


「ひっ、退け」


「逃さぬ」


 撤退する間も与えず、気がつけば全ての浪人を殺していた。


「呂蒙殿!」


 光秀はその惨状の中から呂蒙も探しあてると肩を抱きかかえて起こした。


「呂蒙殿、呂蒙殿」


 気を失っている呂蒙を揺さぶり起こそうと何度も何度も呼び叫んだ。


「うぅ……」


 呂蒙から絞りだすような声が漏れた。


「呂蒙殿!」


「み、光秀殿、か?」


 呂蒙は目を開きかけたが、額や頭から流れる血がそれを邪魔する。


 光秀はすぐさま自分の衣服を切り裂き、呂蒙の顔を拭きだした。


「よ、よい。よいのじゃ光秀殿」


 呂蒙は最後の力を振り絞るかのように光秀の腕を掴む。


「光秀殿、すまぬ。情けないことだが、儂の命はここまでのようだ」


 閉じられた呂蒙も双眼からは血の混じった涙が流れている。


「何を弱気な」


 光秀は再度顔を拭きだした。


「光秀殿、私の命だ。私が一番よくわかる。このような賊の手にかかるとは本当に情けない……光秀殿、どうか、どうか孫策様を守ってくだされ。最後の頼みだ……」


 所々辿々しく、最後の言葉を告げると光秀の腕を掴んでいた呂蒙の力がふっと抜け、重力に逆らわずに地に落ちた。


「呂蒙……殿……」


 同様に光秀もその場に崩れ落ちた。


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