部下たちの案内で刺客たちの隠れ家に到着した。隠れ家は自然にできた洞穴が使われており、辺りは丈の高い樹木や草花で覆われている。
昼でも薄暗く、逃亡者や刺客にはうってつけの場所と言えよう。
光秀は周囲を厳戒するよう呂蒙に助言すると、自ら洞穴の入り口に進む。
中を覗くと吸い込まれそうな暗闇が深くまで続き、静寂で澱んだ空気がとどまっているかのような錯覚さえ覚える。
光秀はわずかな音も漏らすまいと耳を澄ました。
「光秀殿」
「人の気配は感じられない。中へ入ろう」
「わかった。兵には近隣の警戒を続けさせておく」
兵らに指示を与えると呂蒙と光秀は灯りを手に洞穴に入っていった。案外深くまで続く通路を慎重に進む。
人の声や気配どころか物音一つ聞こえない。
「誰もいないみたいですな」
光秀が小声で呂蒙に囁く。
「うむ、とにかく突入しよう」
呂蒙と光秀は意を決し、隠れ家の中枢に飛び込んだ。
案の定誰一人いない。
「なんかしら出てくるかもしれん。探してみよう、特に文や書に注意を払おう」
慌てて隠れ家を捨てたのか出掛けているだけかわからないが、文などは捨てられておらず文箱に雑にしまわれていた。
「呂蒙殿、これを」
光秀はそれを見つけ、呂蒙に手渡した。
呂蒙はそれを黙読していたが次第に手が震え、こめかみには血管が浮き出ていた。
「やはり
「なにかわかりましたかな?」
「うむ。首謀者は許貢という孫策様に処刑された男の食客ら数名、商人から毒も買い付けてあるらしい」
「毒……孫策様の身辺警護は?」
「周瑜様がしっかりと警護を侍らせているはずだが、孫策様の性格が……」
「なるほど、警護になぞ頼らんといった性格か」
呂蒙は無言で頷いた。
「まあ、ここは証拠を見つけたのだし、これを上奏すれば孫策様とて護衛を無碍には扱わぬだろう」
「……だと良いのだが」
呂蒙の不安の根はなかなかに深いようで、光秀の言にも納得せずに難色を示している。
「では呂蒙殿、貴殿自ら護衛を志願してはいかがか?」
光秀は次なる案を呂蒙に語った。
「上手く護衛の任を務めれば、孫策様の命はもとより貴君の昇進にも有利に働くのではないか?」
「だが若輩の儂などを護衛につけてくれようか?」
呂蒙は自信なさげに光秀に返答した。
「何事もやってみねばわかるまい」
光秀はにこりと笑顔で答えた。
「そうだな。志願してみるとしよう」
呂蒙は文箱を部下に渡し、隠れ家からの撤収を命じると来た道を戻っていった。
出口が近づく。洞穴に陽の光が差し込む。
「敵だ!」
外から呂蒙の兵の叫ぶ声が聞こえる。
同時に悲鳴や金属音も耳に入る。
「呂蒙殿、後ろへ!」
光秀は呂蒙の部下とともに、呂蒙の前に立ち出口へと進むと、外を警戒しながら戦況の確認をし始めた。
刺客は光秀から見える数で五人。
武器は様々で剣を持つ者、斧を振るう者と主に近接用のもの。手入れが行き届いているのか陽が反射し眩しい。
対照的に衣服は薄汚れ、破けていたりほつれていたりで、いかにも浪人風であった。
ただ個々の武勇は呂蒙の兵に勝り、数倍の呂蒙隊が押されているようにさえ見える。