「まあ至極当然の条件であろう。構わぬ」
光秀は快諾し、呂蒙に臣下の礼をとった。そして部下を斬った非礼を詫びると、出血過多で気を失っている大男の応急処置をし、斬り殺した者の冥福を祈った。
「この者らには後ほど迎えをだそう。光秀殿、我らの陣へ案内する」
そう言うと、小川を背にして歩きだした。光秀もそれについて歩く。
「光秀殿、東來とはどのような所か?仙人や不老不死の薬は本当にあるのか?」
興味津々と言った表情を浮かべながら質問攻めにする。
「漢と変わりませぬ。国を治める君主がいて、それを支える家臣、兵、民がいる。仙人などは噂にも聞かず、老いも死もありますな」
「ふむ、全く同じであるか。だが光秀殿の剣と鎧は我らの者とは違うな」
「ええ。この剣は東來では普通に使われる武器で、鉄を鍛えてこしらえた物です。鎧は甲冑と呼ばれてます」
呂蒙は武で名を馳せようと言うだけあって光秀の武具には尚更興味津々であった。
特に刀には並々ならぬ興味を抱いた。切れ味、扱い易さともに呂蒙の知る限りでは秀逸の武器であった。
「お気に召したようですな」
「あぁ。光秀殿、この剣しばし貸して貰えぬか?」
光秀は一瞬躊躇した。
その刀は
「何をなさるのか?」
「このような剣を作ってもらおうと思ってな」
(この時代にそのような技術があるのかはわからぬが、信用を得るが先か)
「わかりました。ですがこの刀は家宝のようなもの、大事に扱ってくだされ」
「承知しておる。すぐに返そう」
光秀は腰から鞘を外し、呂蒙に手渡した。
「光秀殿は槍など使わぬか?」
「いえ、武芸は全般習得してますが」
「では、代わりにこれを預けよう」
丸腰ではいざという時に困ろう。そこで自身の槍を光秀に渡した。
「その槍も名うての鍛冶師が鍛えたもので、なかなかの名槍であるぞ」
自慢げに光秀に語りかける。
見れば刃こぼれ一つもなく、丁寧に磨かれている。
(なるほど自慢するわけだ。なかなかの代物だな)
光秀はその槍を恭しく受け取った。
それからも呂蒙の陣に着くまで、それだけにとどまらず陣中でも光秀と呂蒙は他愛のない話に花を咲かせていた。
呂蒙は光秀の博識や人物に敬意を払い、光秀は呂蒙の貪欲な知識欲と吸収力に舌を巻いた。
これにより、二人の間には信頼関係が生まれ、出会ったばかりの頃の疑惑など完全に吹き飛んでいた。
また光秀の見通した通り、呂蒙の姿形は光秀に酷似していて、更にお互いに親近感が沸いていた。
そんなつかず離れずの生活が続いた数日後。
いつものように光秀と呂蒙が話し込んでいると、呂蒙の部下が慌ただしく駆けてきた。
「何事か?」
呂蒙があまりの慌てぶりに訝しげに問う。
「刺客たちの隠れ家らしき場所を発見しましたとの報告が」
「なに?よし、すぐに向かおう。光秀殿、供を頼む」
呂蒙は光秀から借りている備前近景を手にし、光秀に呼びかけた。
「承知いたした」
光秀も槍を手に呂蒙に従って後に続いた。