(追っ手か?)
光秀は咄嗟にそう判断した。
なにせ主君信長を本能寺にて討った謀叛人である。
追っ手と判断するのは至極当然であった。
そして殺気は言葉を伴い、光秀の背後に至った。
「貴様は何者か?ここで何をしておる?」
声は一つだが足音は三人ほど。これならばなんとかなるかと、腰の刀に手をかける。
「なぜ何も言わん?」
後方の三人がじりじりとにじり寄り、距離を詰める。
「答えんか!」
内一人が痺れを切らして怒鳴った。
(ままよ!)
光秀は答えるかわりに、居合い同然に抜刀すると、舞うかのように華麗に流れる動作で三人に相対した。
「我は惟任日向守光秀!」
堂々たる名乗りをあげ、三人に斬りかかる。囲まれないように、右に立つ坊主頭の大男を最初の標的にし、全力で駆ける。
大男は虚をつかれたかのように狼狽し、槍をでたらめに振るった。
光秀は大男とは対称的に冷静に相手の動きを見ると、隙の大きな足元を狙い、低い姿勢で斬りつけた。
剣は凄まじい速さで大男の左足を切り裂き、それによって大男は体勢を崩し倒れた。
「これは……」
光秀は自身の身軽さと剣技の冴えに驚いた。武士として剣の技や武道を磨き続け老練の域に達したものが、若さという潤滑油を得て、さらに昇華したかのようであった。
(これならばいける)
そう確信した光秀は大男に止めを刺さず、次の標的に向かった。真ん中にいた大将らしき人物である。
その人物はよくよく見ると、精悍な顔つきの中に幼さが見え隠れする若武者であった。
(若い、だが……)
自分の命を狙う者に、いくら女子供でも躊躇などしている余裕はない。
光秀が剣を振りかぶる。だがもう一人の男が間に入って来て、若武者を身を挺して守る。
そのまま光秀の剣が振り下ろされると、左肩から袈裟斬りに斬られ、血が吹き出した。
それでも、光秀を捕捉すべく両手を広げ鷲掴みにしようと寄ってきた。
光秀は咄嗟に後方へと跳ね、同時に刀を振るった。攻撃は相手の正中を的確になぞり、眉間から真っ二つに割られたかのように血煙が上がり、そのまま前方に倒れこんだ。
(残るは一人)
男が倒れたために、その後ろに見える若武者を睨みつける。若武者は怯えた様子を見せながらも、逃げようとはしない。
逆に槍を構え、光秀の出方を窺っていた。
「ん?おぬし……?」
光秀は目を疑った。
若武者の顔は髭など微塵もなく、女と言われれば女に見えなくもない。それ以上に若き日の光秀によく似ていた。
いや、若返っているのだから今現在似ているのかもしれない。
「おぬし、名は?」
「我が名は
「なに?呂子明?孫策?」
光秀は混乱した。
『そんさ』」という人物を頭の隅から隅まで探し回るが、思いつくのは三国志の孫策のみ。
「少し話を聞かせよ」
「私の部下を切り捨てておいて何を言うか!」
「斬りかかったのはそちらが先であろう」
呂蒙は言葉に詰まった。