時間は少し遡る。
曹操が官渡に兵を集め、信長が徐州から青州目指し軍を動かしたころ。
長江の南、江東の地では名門孫家の
江南の二張と呼ばれる賢人を始めとし、若き賢才武人を登用し、また
孫策はまだ齢二十六。一般で言えばまだまだ若い。それを最も近くで補佐する
二人は幼なじみで、
「
孫策が短めに無造作に生やした髭をなでながら、目の前に座る美男に語りかけた。
「孫策、君は何をそんなに生き急いでいるのだ?機かと問われれば機ではあるが……正直な所、尚早であると私は思う」
孫策と対照的に女性のように滑らかで透き通るかのような白い肌に蝋燭の灯りを反映させ、孫策の問いかけに答えた。
「公瑾ならばそう言うと思ったよ。だがな、なぜか今しかないように思えるんだ」
「うーん。君が主君であるし、機であるのは間違いない。どうしてもと言うならば軍の編成はするが……」
周瑜は先にも話したように、孫策が生き急いでるような気がしてならず、心に一抹の不安を抱えていた。
「うむ。いつもの俺のわがままだ。頼む」
孫策は屈託のない笑顔で周瑜を見つめた。
周瑜もこの笑顔に見つめられると、なんとかなるのではないかという気持ちにさせられる。
「わかった。この周瑜の命は君に預けてある。それに君は戦の空気を読み取るのが凄まじくうまい。その直感に従うとしよう」
周瑜も絵に描いたような微笑みで孫策を見つめ返し、孫策の空いた杯に酒を注いだ。
翌朝、孫策と周瑜は主だった配下を集めると許昌襲撃の軍議を開いた。
二張こと
だが、才気溢れる若き将らの勢いに押され、渋々ながらも承諾した。
その若き将の末端にいた男、名を
叔父の私有軍の一員として孫策軍に加わり、秀でた武勇を示し孫策の目に留まり、将来を嘱望されこの軍議に参加することになった。
(孫策か。豪放磊落な人物よ。だが心地よい)
呂蒙は心底そう思い、孫策を慕っていた。
数日前のことである。
光秀は小川のせせらぎに目を覚ました。
「生きているだと?」
自刃した時の痛みはしっかりと覚えている。しかし今は痛みもなければ両手も不自由なく動く。腹部をさすってみたがそこにも痛みは感じない。
光秀は体を起こし、小川の水をすくう。
「まさかこれが三途の川か?」
自嘲気味に呟くと、その水で顔をゆすいだ。
水は肌に突き刺さるかのように冷たく、光秀は生を実感した。再び水をすくい、今度はそれを飲み干し、手で口をぬぐう。そして気づいた。
五十をとうに越え還暦も間近の、ややしわがれていた手の甲が張りのある肌になっている。
すかさず顔を触る。顔の肌も若さを主張し、目尻の皺など跡形もない。
(若返った?)
そう感じると同時に、後方から人の気配がした。気配は殺気を放ちだし、光秀の背を襲う