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第37話

 荀攸が張郃と高覧を伴い、官渡の曹操らがいる部屋へと連れてきた。


 張郃と高覧は部屋に入るとすぐ膝を地につき、許しを請うような姿勢で曹操の言葉を待った。


「よくぞ参った」


 曹操が一言声を発する。


 その声で張郃と高覧が額を地につける。


「頭を上げよ。張郃、高覧。貴殿らが降伏したのは実に正しいことなのだ。古の韓信かんしん項羽こううから離れ高祖こうそに仕えたようにな」


 そう告げると、荀攸に命じて偏将軍の印綬を渡させた。


「期待しておるぞ」


「しばし」


 張郃が頭を下げたまま曹操を呼びとめた。


「なにかな?」


「どうやって烏巣を落としたのかお教え願いたい」


「ふふふ。さすがにわかるまい。まあ少し待て。烏巣攻撃軍が戻って来よう」


「はっ」


「さあ張郃よ。袁紹を追い払う最後の局面だ。思う存分力を奮うがよい」


 張郃と高覧を立ち上がらせ、あとは夏侯惇に軍備について聞けと言い渡し退出させた。


「織田信長、早く戻ってこい。袁紹追討の好機ぞ」


 一人になった曹操は信長を懐かしむように夜空を見上げてつぶやいた。


 そして、夜が明ける。


 曹操は興奮冷めやらず、眠りもそこそこに起き上がった。


 袁紹軍は即刻退く以外に軍を維持することはできないだろう。


 曹操は夜の内に、翌早朝の進軍を告げており、あとは連携するために信長からの連絡を待っていた。


「信長殿から使者は?」


 部屋の外に叫ぶ。


「淳于瓊らの首とともに参っております」


 近衛兵がすかさず報告する。


「すぐに参る」


 曹操は時間をかけず、簡単に身だしなみを整え軍議場へ向かった。


 そこでは信長の使者がすでに平伏し、曹操を待っていた。


「烏巣攻撃ご苦労であった。淳于瓊らの首は晒しておくとしよう。して、信長殿は息災か?」


 などと世間話や信長の話をしばらくすると、


「信長殿は今どこに?」


と、尋ねた。


「烏巣周辺の袁紹軍を駆逐しております。曹操様が進軍する時は烏巣から袁紹本陣を突く、と」


「そうか、我らはこれより出陣致す。信長殿にも急ぎ進軍されるよう。袁紹の首を肴に酒でも酌み交わそう、と伝えよ」


 使者が立ち去り、曹操が陣割りをきめる。


 袁紹本陣を包み込み、幾重にも伏兵を張り巡らせる陣で進軍開始の号令を出した。


 烏巣から信長軍、官渡城から曹操軍と二方面からの攻撃に、大軍とはいえ、兵糧を焼き払われ戦意喪失した袁紹軍はまともに戦いもせずに敗走しだした。


 曹操は数度の追撃をしたが、深くまでは追わずに引き返した。


 途中、共に引き返した信長軍と合流すると、軍を夏侯惇に任せ、信長の下へと駆けていく。


「久しいな、信長殿」


「おぉ、曹操殿」


 二人は馬上で握手をかわす。


「儂からの土産は気に入ってもらえたかな?」


 曹操がにやける。


「ふん、おぬしの土産は派手すぎるわ」


 信長も微笑み返す。


「ははは。だが信長殿、よくやってくれた」


 曹操は高笑いすると、顔を引き締めて信長に礼を言った。


「高くつくぞ」


「極上の酒を振る舞おう」


「ふん」


「袁紹は再び兵を挙げよう。それが終わったら少しはゆっくりできるであろう」


「そうだな、それまでは最高の酒で我慢しておくか」


 二人の大笑いは遠く許昌の地にまで届きそうな勢いであった。

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