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第34話

 信長の命により引き返してきた両軍が、援軍の蒋奇軍とぶつかる。


 新手の敵軍に対しても趙雲と信忠は遅れを取ることなく、ほつれた糸をほぐすように切り崩していく。


 蒋奇は烏巣の兵糧も焼かれ、これはかなわぬと引き上げの合図を出すが、すでに軍は崩され、乱戦の最中趙雲に捕縛された。


 これにより烏巣は完全に信長軍の手に落ちた。




 一方官渡では、張郃・高覧軍と曹操軍が対峙していた。


 曹操は自身の姿を隠し、城外に曹洪を大将とした軍を展開させていた。


「寄せ手の大将は張郃か。なかなかの戦上手と噂に聞いてはいたが、なるほどな」


 張郃はすぐに攻めかからず、曹洪軍を一重二重と厚く包囲し、じりじりと包囲を狭めていく。


 曹洪の部隊からはそれが幾重にも包囲されているように感じられ、弓で牽制するよりない。


 曹洪は重圧に耐えかね、軍を下げると方円陣から魚鱗陣に切り替え、官渡城を背に絶対死守の構えを取った。


「背水の陣のつもりか。曹洪といえば名将と名高い男だが、この程度か」


 張郃はそれでも油断は見せずに、包囲を狭め、さらに圧力をかけていった。


「曹洪将軍……」


 曹洪軍の副将が圧され気味の雰囲気を嫌い、不安そうに打開策を求めてきた。


「耐えよ。陣形を崩すな。今はそれだけだ」


 曹洪は落ち着いて、副将に告げる。


「さすがに崩れぬか。高覧仕掛けよ」


 張郃が攻撃命令を出す。


 高覧が魚鱗陣の左手から、最後尾の曹洪めがけて進撃を始めた。


 曹洪はすかさず弓隊に指示をし高覧隊の足止めをさせ、盾と槍の部隊で応戦した。


 高覧隊も果敢に攻め立てるが堅陣の曹洪軍を崩すことができない。


「我らも攻めかかるぞ」


 張郃が兵を動かした。高覧とは反対の右手から曹洪に襲いかかる。


 曹洪も対応して兵に指示をだしたが、張郃隊の参戦に高覧隊の士気があがり、攻撃が激しさを増し、徐々に盾の部隊が崩れだしてきた。


「耐えよ!」


 曹洪は崩壊を食い止めるべく兵を鼓舞し自ら槍を振るって戦っていたが、矢が尽きると、とうとう魚鱗陣の一角が崩れだした。


「やはり保たんか」


 曹洪は呟くと陣の乱れた場所に向かい、そこを繋ぎ止めるべく獅子奮迅のごとく刀を振るった。


「ふん、大将が出てきたわ。皆突撃せよ」


 高覧が叫ぶ。張郃の隊もそれに釣られ、曹洪めがけて殺到する。


「かかったな」


 防戦一方のはずの曹洪がにやりと笑みを浮かべ、官渡城に向けて真紅の旗を振る。


 同様に官渡城でも真紅の旗を天高く掲げ振り始めた。


「なんの合図だ?」


 張郃は旗に気づき疑問に感じ周りを見渡した。


「待て、止まれ!」


 張郃が兵を留めようと声を張る。だが兵は勝ち戦に酔いしれ、とどまることをしらずにひたすら突き進む。


「ちっ!」


 張郃が舌を打ち鳴らして後方を振り返ると、もくもくと砂塵が舞っているのが見えた。


「ま、まさか?」


 その声を発したと同時に騎馬の軍団を確認した。先頭の人物は右目に眼帯をした武人である。


「盲夏侯!」


 事前の情報だと夏侯惇は曹操とともに烏巣に向かったはずであった。


 それが今、豪壮な槍を引っさげて、張郃隊の後方を驀進してきた。

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