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第33話

 道三の報告を受けた信長はすぐさま軍を進発させた。


 袁紹の物見に見つからないように、烏巣から少し距離を置いた場所に陣取っていたが、官渡よりははるかに近い。


 信長は曹操の鎧を着込み、目立つように先頭に立ち、軍を率いた。そのすぐ後ろには趙雲が続き、烏巣までの道のりを案内している。


 目立つように進軍しているのだから、当然袁紹の物見にも発見された。


 薄暗がりの中で物見の兵は鎧と旗から曹操本隊であると誤認し、袁紹に使者を送った。


 同時に淳于瓊以下の守将らにも使者が送られた。


 夜半近くで眠っており、奇襲に近い形での報告に慌て急いで陣を整える。


 烏巣の淳于瓊軍を最奥にして左翼前方趙叡ちょうえい、後方に睦元進すいげんしん、右翼前方に韓莒子かんきょし、後方に呂威璜りょいこう、という配置の鶴翼陣。


 烏巣急襲を両翼で包み込み殲滅しようという陣形である。だがその陣形も信長の放った間者により露見された。


 信長は左翼に趙雲、右翼に信忠と蘭丸、中央に信長本人と軍を三手に分けると、勢いのままに突撃していった。


 中央を信長扮した曹操が駆け抜けようとするため、両翼の兵たちはこれを囲もうと翼を狭める。


 左右の将らは趙雲や信忠の部隊にも目を向けているが兵らの意識は、功績欲しさに中央を向く。


 そこを信長軍の両翼が容易く打ち破っていく。


「敵将討ち取った」


 逃げ惑う兵の中に趙叡を発見した趙雲は、背を向けて走る趙叡の後方から一気に槍で突き刺した。趙叡は断末魔の叫び声をあげるとそのまま事切れた。


 また信忠も立ちはだかる韓莒子を一刀両断に斬り伏せ、蘭丸は呂威璜を見つけ、追いかけている。


「馬鹿者共が」


 一隊を率いる部将たちの不甲斐なさに、大将の淳于瓊は腹を立て、自ら軍を動かそうとした。


 だが目前には何よりも大功で、勝敗を決す存在が馬上で刀を振るい奮戦していた。


「あれは……曹操!」


 淳于瓊は腰の弓をつがえると、力任せに引き絞り、矢を放った。


 矢は白銀の鎧の武将に突き刺さると、矢の勢いのままに馬上から転げ落ちた。


「やったぞ!曹操を討ち取っ……」


 最後まで話すことなく淳于瓊の首は地に落ちていた。 淳于瓊の背後には袁紹軍の鎧を纏った信長が、血の滴る刀を手に立っていた。


「貴様、何を!」

「裏切り者か!」


 淳于瓊の部下が駆け寄ってくるなり、槍や刀を信長に向け問い詰める。


 だがその兵らもばたばたと倒れていく。


「信長様、ご無事ですか?」


 信長とともに淳于瓊軍に潜入した兵たちが信長の周りを囲む。


「問題ない、さて……」


 信長は兵に返答すると、淳于瓊の首を槍の先に突き刺し、声高に叫んだ。


「敵将淳于瓊討ち取ったり!」


 その声に信長軍の士気は否が応でも高まり、逆に淳于瓊軍は敗走を始めた。


「逃がすか」


 蘭丸は混乱する部下のために逃げ遅れた呂威璜を捕らえ、信忠は追討をし無防備な淳于瓊軍の背後を次々と切り崩している。


 趙雲も睦元進を追いかけて突き殺し、信長も自ら刀を振り、敵兵をなぎ倒していく。


「他愛ない。兵糧に火をかけよ」


 信長の指示に数々の兵糧庫が燃やされ、炎天下の真昼のごとく、空が明るくなった。


「信長様、袁紹軍の軽騎兵が近づいております」


「ふん、遅いわ。趙雲と信忠を呼び戻せ」


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