「その任務、そつなくこなして参ります」
袁尚はその容姿と若さ、溢れる才気を袁紹に愛され、兄たちを差し置いて跡取りと目されていた。
自身もそれを知っているのか増長し、その言動は袁紹に阿るようであった。
「
袁紹も末子の言葉を頼もしく思う。
嫡男である袁譚にはそれが苦々しい。自分こそが袁家の跡取りであるという自負もある。
「父上、青州の騎兵で許昌を突くべきではないでしょうか?」
突如、袁譚が献策する。
「兄上、それは先日の軍議で却下されておろう。今更そのような奇策を用いずとも、大軍を並べて堂々と進軍すれば寡兵の曹操など容易く抜けるわ」
袁尚が当主気取りで袁譚に反論しだした。
「顕甫、戦功を焦りすぎだ。お前はまだ若く戦歴も少ない。正面からぶつかる進軍で未だに官渡すら抜けておらぬことをどう説明するのだ」
袁尚は反論を返すことができず、今にも襲いかかりそうな目で袁譚を睨んだ。
「
「父上!」
袁譚が袁紹に怒りのこもった眼差しを向ける。
「顕思よ、ここで言い争いをしている場合ではなかろう。それとも儂の命に背くつもりか?」
こうなると袁譚は何も言うことができない。
にやにやとほくそ笑んでいる袁尚に聞こえるように大きな舌打ちをし、大股でその場を立ち去っていった。
「顕甫、重大な任だ。頼んだぞ。
父の言葉に袁尚は意気揚々と幕を出ていった。次男の袁煕もその言葉に頷き、弟の後ろをついていく。
袁譚だけは怒りや不満から顔色を真っ赤に染めて自分の幕に戻っていった。
「殿、ご機嫌が悪そうですな」
腹心の
「顕甫めよ。父上も顕甫を可愛がりすぎだ。顕雍も覇気が足らん。弟に頭があがらんとは」
袁譚は胸の内をまくし立てた。
「怒る気持ちはわかりますが、ここは大殿の指示に迅速に従いましょう。反発すると心証が悪くなりかねません」
「うむ……」
袁譚は納得できないながらも頷く。
「青州の部隊を手元にまとめておけば、後々便利になると思いますが」
辛評は淡々と話した。
「どういうことか?」
袁譚が怪訝そうに問い詰めた。
「深く考えなさるな。殿の自由に動く軍を身近においておくのが良いというだけです」
「ふむ、何を企んでいるのかわからぬが、おぬしがそう言うのならばそう致そう。では急ぎ青州に参ろう」
袁譚はすぐさま身支度を整えると、官渡の部隊を辛評に預け、自身五百の兵を率いて青州に向かった。
黄河の氾濫もだいぶ落ち着いたので船を出し、河を下る。
清河近辺を過ぎたあたりで三千ほどの兵団を発見した。旗には袁家の旗とそれに混じって王と書かれた旗がたなびいている。
「殿、あれは
「うむ、あの軍団の進軍を止めよ。すぐに儂も向かう」
袁譚は兵に上陸を命じた。袁譚軍が陸に到着すると、学者風の男が駆け寄ってくる。
「殿」
「やはり王修か。なぜこんなところにおるか?」
「はっ。青州は
王修が慌てふためいた様子で説明をする。
「なんだと!」