「曹操様、曹操様」
軍師団と軍議中の曹操を探し、近衛兵が走り回る。
「騒がしいぞ、何事か?」
程昱が兵を諌めようと部屋から飛び出た。
「あ、程昱様。織田信長殿の使者が到着しておるのですが、殿をお見かけいたしませんでしたか?」
「殿は今我らと軍議しておる。しばし待て」
程昱は兵にそう伝えると曹操を振り向いた。
曹操は無言で頷く。
「この部屋へ連れて参られよ」
曹操の了承の下、蘭丸が案内されて曹操と対面した。
「君が使者だったか」
「は。森蘭丸と申します。信長様の命を受け、書状を持って参りました」
「ご苦労であった。信長殿は息災であるか?」
「はい。青州の袁紹軍と松永軍を討ち倒し、今は黄河沿いに南下しつつ陣を敷き、袁紹陣内に密偵を放ち様子を見ている状態です」
「おお、戦勝を祝い忘れておった。袁紹の陣に潜り込んでおると?」
「は。利政が潜入しております。不平を漏らしている男がいるらしく、真偽を確かめるため今しばらく時間がかかると思いますが」
蘭丸の言葉に曹操の眉がぴくりと動いた。
「ほう、不満を漏らしている者がおるのか」
「今はまだ敵の策の可能性も考慮し、詳しくは話せませぬが」
曹操は郭嘉を振り向き、
「どう思う?」
と、短く問いただした。
「あれだけの人がいれば、内部は一枚岩とはいかないでしょうな。問題はその人物が重要な情報を得られる者なのか、ですか」
郭嘉の言に便乗し、曹操が蘭丸に、
「どうだ?」
と尋ねる。
「軍師団の者と報告を受けております」
それを受けて、曹操以下諸将が表立った袁紹の謀臣を思い描いた。
「ふん、不満は渦巻いてそうですが、罠を仕掛けられるような優秀な謀臣など浮かびませんな」
賈詡が吐き捨てるように言葉を発した。
「そうだな。君らの内一人でもいれば、小賢しい罠を仕掛けるのであろうが」
曹操が大口を開けて笑う。
「さて蘭丸よ、我らの側からも袁紹の陣に諜報隊を忍ばせよう。先の話がうまく行きそうならば、機を見て君に策を授ける。それまではこの官渡に逗留していきたまえ。信長殿の話が聞きたい」
それから数日後、曹操軍の猛反撃が始まった。
発石車から放たれる石や岩が孤を描き、雲梯を次から次へと破壊していく。
その破片が地上に降り注ぎ兵を傷つけ、倒壊した雲梯が衝車の道を塞ぐ。
衝車は曲がることを想定して作られておらず、そのまま雲梯に突っ込む。
かろうじて残った雲梯の攻撃も単発ならばその威力を発揮することはない。
さらに曹操軍には天も味方した。
降りしきる雨は時に豪雨となり、それによって蓄えられた黄河の濁流が土中の袁紹軍に牙を剥いた。
地上においても残った兵器が無力化するほど地面はぬかるみ、袁紹軍は戦闘を放棄し、撤退せざるを得ない状況に追い込まれた。
悪いことは続くもので、黄河の濁流は流域の河川を氾濫させ、運搬中の兵糧はもとより、数多くの兵糧基地にも多大な損害を与えたのだ。
「息子らを呼べ」
袁紹が不機嫌さを大いに表し、袁譚・
「いかな儂でも自然には勝てん。袁譚、青州から兵と兵糧を輸送させい。袁煕と袁尚は残った兵糧を