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第15話

「いえ、曹操殿の優秀な軍師の方々は皆気づいていることかと」


 半兵衛は曹操家臣団を持ち上げた。あまり余計なことをして、信長の立場を悪くしてはいけない、と控えめに受け答える。


「徐晃、おぬしを遊軍とする。袁紹の輜重隊を襲撃せよ。戦利品などは確保せず、燃やしてしまえ」


 曹操の命が下る。


「殿、お待ちを」


「なんだ?郭嘉」


「輜重隊襲撃には賛成しますが、まだ尚早。せめて袁紹本隊が渡河し終えるまでは待つが良いと思いますが」


「理由は?」


「補給路をできる限り伸ばします。ここに徐晃殿の襲撃が加わり兵糧を失えば、袁紹はより近くに兵站基地を作ることでしょう。そこを探り当て、一気に決着を」


「うむ。荀攸、賈詡、程昱。おぬしらの意見は?」


 荀攸は静かに首を縦に振り、程昱も同意と返答した。


「いっそ官渡まで袁紹を引っ張るのも良いですな」


 賈詡が自身の戦略を加えつつ、郭嘉に同意する。


「わかった。軍師らは袁紹を引きつけ、兵站を暴け。だがあれだけの大軍だ、容易に引きつけるだけではこちらも危ういぞ」


 曹操は軍師団を試すようにあえて曖昧でおおざっぱな指示を与えた。


「ただ進ませるのも面白くないですな。斥候を兼ねて、諸将の出陣を」


 荀攸が献策する。


「よかろう。楽進と于禁、張遼を呼び戻せ。戻り次第、各将に出陣してもらう」


「関羽殿は?」


「関羽か……劉備が出陣している以上、この戦場には置いておきたくないな。許都で休んでもらおう」


「承知しました」


 荀攸は曹操の許可を得、諸将呼び戻しの書状を作成に向かった。


 袁紹との戦に意気込み、勝利を疑わず、実際顔良と文醜の二将を破ったが、所詮局地的なもので、袁紹率いる四十万の兵団には為すすべなく、やや消沈気味であった。


 そんな軍師団が活発に行動し始める。


「曹操殿、我らも徐晃殿の手伝いをしたいと思います」


 曹操と家臣のやり取りを黙って見ていた半兵衛が志願した。


「しかし、貴殿は客将。無理をさせることはできぬ」


「ですが、皆の士気が上がっているのに、我らだけのうのうと過ごす訳にもいきませぬ。そんなことをしたら信長様に叱り飛ばされてしまいます」


 半兵衛が苦笑した。


「叱られると?わかったわかった、ではお願いいたそう」


 曹操の笑い声が辺りに響く。こんな心から楽しそうな姿はここ最近見たことがない。


 この時ばかりは将兵とも気を休め笑いあった。




 劉備はひたすら逃げた。自分の戦ではないし、ただ関羽の所在を確かめたいだけであったのだ。命を賭して戦う必要はない。


 そうやって劉備がたどり着いたのは白馬の川岸であった。


 ぐるりと回って、戻ってきたらしい。辺りを見回せば、従う兵は少数。


 劉備は兵に命じ、船を用意させた。張飛の帰りを待ち、戻り次第袁紹の本隊に合流する手はずであることも兵に伝えた。


 日は暮れかかり、やや肌寒さと空腹を感じた頃、張飛が追いついた。


「こんなところまで逃げていたか。しかし、兄者はなんでこんなに戦が弱いんだ」


 開口一番、張飛の愚痴がこぼれる。


「すまん」


 劉備は素直にうなだれると、


「雲長の足取りも掴めないし、文醜は討たれた。益徳よ、機を見て荊州に行かぬか?袁紹殿の下にはとどまりづらいし、袁紹殿では曹操に勝てぬ気がする」


と、本音を明かした。

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