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第11話

「文醜将軍、曹操軍がさらに速くなりました」


「ふん。我らの馬を疲れさせようというのか。だが条件は同じ……構わん、馬が潰れるまで追いかけよ」


 文醜の命令で軍はさらに速さを増す。


「文醜軍も追いかけてきました」


 荀攸は頷くと、


「張遼将軍、最後方の輜重隊を切り離す。離脱後輜重隊を文醜軍進路から遠ざけつつ逃げよ。だが追ってくる者は切り捨てても構わぬ」


と、指示した。


「畏まった」


 張遼はそのまま後方に下がり、輜重隊の一部を引き連れ、本軍から離脱していく。



「文醜将軍、輜重隊が切り離されました」


「よし、兵を割く。物資を回収したのち、後続の劉備軍と合流せよ」


 文醜の指示で輜重隊追撃のための軍が割かれた。



「荀攸様、文醜軍の一部が張遼将軍を追撃」


「かかったな。関羽将軍、この先の林を抜けたところで残りの輜重隊を切り離す。なるべく派手に立ち回り、文醜軍を引きつけよ」


 関羽は無言で頷いた。


「続いて徐晃将軍。関羽将軍が立ち回っている間に兵五百を連れ、延津南の森に潜伏せよ」


 徐晃は指示を受け軍の先頭に向かった。


 曹操軍はそのまま林を走り抜ける。予定通りに関羽が後方へと下がり、輜重隊を本軍から切り離す。


「文醜将軍、また輜重隊が。指揮を執る武将は長髭の男、あっ、あの男です」


 関羽は輜重隊を先に行かせ、一人文醜軍の前に立ちはだかっていた。


「退けぃ、ひき殺されたいかぁ!」


 文醜の怒鳴り声などまったく意に介さず、堂々とした立ち振る舞い。


「貴様が関羽かぁ!」


 そう叫びながら手に持つ斧を振り上げ、馬の爆走に任せるままに突進する。


 いかに関羽の偃月刀が頑強とはいえ、この勢いで斧を振り下ろされては防げるものではない。


 だが、


「ふん、袁紹軍随一とはこの程度か」


 関羽は文醜の怒涛の如き猛進を一笑に付すと、振り下ろされる斧の真横に偃月刀を薙ぎ当てた。


「なっ……?」


 斧は横からの衝撃に標的を失い、その痺れから文醜の手を離れ、空に孤を描いた。


 だが文醜の馬の勢いは止まらず、関羽の脇を駆け抜ける。


「貴様を殺せとの命は受けておらぬ」


 関羽は文醜には他に一切手を出さず、すんなりと脇を通した。


 だが後続の騎馬隊が突進してくると、偃月刀を脇に構え待ち受けた。


 突撃してくる文醜軍は、大将が軽くいなされたにも関わらず、各々武器を掲げ襲いかかる。


 だが関羽は慌てる様子など全くなく、むしろその軍勢に馬を向けた。


 双方が激しくぶつかりあう。赤い砂塵が方々に乱れ飛び、数人の騎馬兵が馬から転げ落ちた。


 間合いに入らなかったため無事に切り抜ける者もいたが、中には腕や足といった四肢のなくなった者、首や胸から上がない者なども、馬の走るに任せ通り過ぎていった。


 次第に、文醜軍は関羽を避けて文醜に続こうと突破を試みる。


 関羽はもう良いか、と頃合いを見計らい、先に向かわせた輜重隊の後を追った。


 文醜軍は関羽により、士気を断たれた。


 一方の文醜は、軽くあしらわれたことから気を取り直し、腰の剣を抜刀し曹操軍を追った。


 振り向けば、従う兵は極僅か。


 進軍路の周囲は木々がひしめく林。


 文醜は怪しい雰囲気を感じ、馬を早めた。


 その時。両脇の林から、雨のような矢が降り注ぐ。


「ふ、伏兵、か……」


 文醜は体中に矢が突き刺さり、一言呟くと息絶えた。


「敵将文醜討ち取った」


 徐晃軍の兵が喚き立て、林の中から飛び出しては後続の文醜の部下を次々攻撃していく。


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