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第8話

 徐晃は馬首を返し、再び顔良に突進した。


 馬術によほど自信があるのか、手綱から手を離し両手で戟を持ち、大きく振りかぶる。


「ふん、大振りの攻撃は読みやすい。しかも馬を操縦できぬではないか」


 顔良とて並みの武勇ではない。徐晃の攻撃の欠点を見破ると、その攻撃範囲から外れるようにすばやく馬を操縦し、徐晃の進路から外れるように回り込む。


 徐晃は戟を振り下ろすべき対象が進路上からいなくなり、手綱を取り直して速度を落とす。


「まだ若いな」


 顔良がその隙を見逃さず近寄り、徐晃の馬に槍を突き刺す。徐晃は体勢を崩し、馬から転げ落ちた。


 すぐに立て直そうと起き上がるが、すでに顔良は槍の穂先を徐晃に向けて構えている。


「ふん、一人で突撃した勇気は認めてやる」


 顔良が槍を突き出した。


「徐晃殿、貴殿の武はそこまでのものであるか」


 どこからともなく関羽の声が聞こえる。


「関羽、殿」


「なに?関羽だと?」


 ついつい顔良は周りを見渡し、突きの速度が鈍った。徐晃はその隙を逃さず手刀で槍の軌道を変えると、間合いを詰めるとともに体当たりした。


 今度は顔良が体勢を崩す。すかさず関羽が自らの武器である青龍偃月刀を徐晃に放り投げた。


「お借りいたす」


 徐晃は青龍偃月刀を受け取ると真一文字に振るった。徐晃の武に呼応し、半円の軌道が空に描かれる。


「我が偃月刀を斯様に使いこなすとは。お見事」


 関羽は顔良の配下から槍と刀を奪い取り、両手に二刀を携え軽々と振り回し、兵らをなぎ倒していた。


 それでいて、徐晃からは目を逸らさずに行く末を見守っていた。


 徐晃が青龍偃月刀を振るう度に袁紹の兵は崩れ落ち、顔良も体勢を立て直せず、防ぐのが精一杯であった。


「はあっ!」


 徐晃は横に薙いでいた青龍偃月刀の刃を垂直に返し、その気合いのままに振り下ろした。


 その刃は受け止めようと掲げていた槍の柄を真っ二つにし、さらに勢いのまま顔良の脳天に食い込む。


「大将顔良、徐公明が討ち取った」


 青龍偃月刀を高々と掲げ、勝ち名乗りを挙げると、大将を失った顔良軍は瓦解した。そこへ張遼の軍勢と、白馬城内から劉延の軍勢も現れた。


「関羽殿」


 戦後処理をしている戦場で、徐晃は関羽を見つけた。呼び掛けられた関羽が声の方を振り向く。


「徐晃殿か。先ほどはお見事な武勇であった」


「いえ。これも関羽殿の助力があればこそ。偃月刀をお返しいたす」


 関羽は青龍偃月刀を受け取った。長い間使用していた愛用の武器であったが、返却された偃月刀は柄の部分こそ色が剥げ落ちていたり傷が残っているが、刃の部分は綺麗に研がれていた。


「丁寧な扱い感謝いたす」


 関羽は感じ入り、丁重に礼をした。


「とんでもない。敬愛する関羽殿の武器であればこそ。これを機に数々の非礼許していただけましょうか」


 徐晃はいかにも申し訳ないといった顔つきで神妙に声を発した。


「非礼など言われますな。今後変わらぬ友誼を結びましょうぞ」


 関羽は縮こまっているかのような徐晃の手を取った。ここに関羽と徐晃の終生変わらぬ誓いが立てられた。




「袁紹様、白馬に援軍が出されました」

「袁紹様。于禁、楽進の進軍を捕捉も止められず


 袁紹の下に旗色の悪い報告が次々と届く。


「ええい。白馬から一時撤退させよ」


 袁紹の怒声が響く。


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