目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第7話

 関羽は徐晃が立ち去るまで何も話さず、頭を下げていた。張遼は徐晃が立ち去ったのを見届けると関羽の肩をぽんと叩き、


「関羽殿。徐晃殿の態度申し訳ない。今は皆、戸惑っているだけですから」


と、慰めた。


「なんの。構わぬ」


 関羽も徐晃の気持ちはわかる。そのくらいで腹が立つこともない。


「さあ、いつでも出陣できるように準備しておきましょう」


 関羽は自身のことを気遣ってくれる張遼に素直に感謝した。



 その夜。


「顔良軍、白馬襲撃。劉延りゅうえん殿は籠城」


「来たか。諸将を呼べ」


 曹操が立ち上がる。


 夏侯惇、許褚、曹仁、曹洪、張遼、徐晃、関羽といったいずれも手練れの武将と、郭嘉、荀攸、賈詡といった知謀の将が集う。


「本当の開戦だ。袁紹は白馬に攻撃してきた。兼ねてより于禁と楽進には渡河してもらっておる。彼らに兵を分けた時が白馬救出の時だ。張遼、徐晃、関羽はすぐにでも出陣できるよう待機」


 曹操の指示が飛ぶ。


 指名した三将はこの並々ならぬ顔ぶれの中でも特に馬術に長けている者である。


「白馬救出軍の大将は儂が務める。荀攸供をせよ」


「では我らはおとなしく留守番しているか。孟徳殿の土産が楽しみだわ」


 夏侯惇が他の将たちにおどけて言う。


 曹操は口元を軽く歪ませると、


「頼みましたぞ。夏侯惇将軍」


と大げさに言った。


 細かい説明をしなくても、曹操の想いを読み取って、率先して行動する。それが夏侯惇という男であった。


 曹操は官渡城の門前に救出軍を揃えた。こまめに物見を放ち、袁紹本陣の動きを探る。


「曹操様、袁紹本隊陽動部隊に誘引されました」


 いよいよ袁紹が動いた。


「うむ。全軍白馬に急行」


 曹操の命が下る。関羽、張遼、徐晃が先陣を競うかのように馬を走らせた。




「顔良将軍、曹操が動いた。本隊からの援軍は間に合わん。退却するぞ」


 郭図が怯え、退却を促す。淳于瓊もそれに賛同する。


「馬鹿を言え。たかか少数の曹操軍に怯え、この白馬の包囲を解いて退がると申すか」


 顔良は顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。


「馬鹿はどちらか。白馬との挟撃を甘んじて受けると申すのか」


 郭図も負けじと顔を染め上げた。


「淳于瓊殿、このような猪の軍にいては命がいくつあっても足りん。退きますぞ」


 そう言い放つと、郭図と淳于瓊は各々の兵を引き連れ退却し始めた。


「所詮は文官よ」


 顔良は憤懣し、幕を出ると兵らを鼓舞し、白馬攻撃を続行した。だが奮闘するも兵が少なくなった分、攻勢は緩む。


 そこへ「曹操軍だ」と兵の一人が大声をあげる。


 先頭を走るは徐晃。


「張遼殿、関羽殿、手出し無用ぞ」


 速度を更にあげ、顔良軍へと単騎て突入した。


「徐晃殿、単騎は危険だ、ちっ」


 張遼は徐晃の無謀を止めるべく、喉も張り裂けんばかりに叫ぶが、徐晃はお構いなしに奥へ奥へと進む。


「張遼殿、任せよ」


張遼の脇を凄まじい速さで関羽が駆け抜ける。


「関羽殿ならば」


 張遼は徐晃のことを関羽に委ね、進路を変えて顔良軍を蹴散らしていった。




「顔良、おとなしく首を置いてゆけ」


 徐晃は顔良を見つけると、戟を振りかぶり斬りかかった。


「小癪な」


 顔良は戟を己の槍で受け止めたが、その攻撃は重く速いため、反撃に出る間もなく、さらに徐晃は顔良の間合いから遠ざかっていた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?