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第6話

「曹操様、袁紹が動きました。顔良を大将とした一軍が白馬に、本隊は黎陽に向かっております」


 曹操の下に物見の報告が入る。


「ようやく動いたか。待ちわびたぞ袁紹」


 曹操は椅子から立ち上がると演説するかのように語った。


「やはり袁紹は袁紹でしかないですな。すでに戦機を逸しております」


 荀攸だ。以前荀彧とともに袁紹に仕えたものの、虚勢ばかりで、能力よりも家の名を重んじ、優柔不断であるのを見抜き、見限ったことがある。


「そう言うな、荀攸。彼とてあれだけの名士の意見をまとめるのに苦戦したのであろう。それにあの兵力だ。苦しい戦いにはなるぞ」


曹操が苦笑いを浮かべる。


「左様。袁紹が田豊や沮授の意見を採り入れているならば、敗れるのは我々かも知れませんな」


 荀攸も曹操に釣られて意地悪そうに笑った。


「うむ。荀攸ならば袁紹にどんな策を提示する?」


「私ならば、まず決戦は避けますな」


「ほう。兵力で圧倒しているのにか?」


「曹孟徳相手では兵力だけでは足りません。物資も、とりわけ補給路が長いため糧米も圧倒したいですな」


「なるほど。糧米に補給路も完備されたらかなり厳しいな」


 曹操が腕を組み渋面で応える。


「進軍は小出しに。曹孟徳の奇策を打ち破れる程度ですかな」


「もうよいぞ、荀攸。つまりはそこが袁紹の弱点というわけだな」


 曹操が面相を笑顔に崩した。荀攸もそれ見て微笑む。


「さて、荀攸よ。何か良い策がありそうだが?」


 いつもなら余計な事は話さない男が、こうも口数が多い。何か献策があるのだろう、と曹操は考えた。


「はい。袁紹は予想通りに顔良を先陣に立て白馬を、本隊は黎陽から渡河し攻撃する構え。こちらも一隊渡河させ、後方を衝くと見せかけると、あの優柔不断な御仁のこと。さぞ迷いましょう」


「ほう。狙うは顔良か」


「やはり殿ですな。その通りでございます。勇猛果敢、いや猪突猛進な顔良ならば、後ろまで気にしますまい。孤立したところを叩けば、何の苦もなく敗れるかと」


「よかろう。渡河部隊は誰に行かせる?顔良攻撃の部隊は?」


「渡河部隊は于禁うきんと楽進がよろしいでしょう。顔良攻撃部隊は殿が張遼、徐晃じょこうを率いてくだされば」


「では于禁と楽進を呼べ」


 曹操は近習の兵を呼び、指示を与えたそれほど時を置かず、二人が曹操の下に表れた。


「于禁、楽進。これより軍を率い、延津を渡れ。袁紹の密偵に見つかるように渡河せよ。その後西へ進軍し、袁紹軍を誘引するのだ。だが袁紹本隊と戦う必要はない」


「承知致しました」

「はっ」


 両将は曹操の指示を信頼し、何一つ疑問も抱かず、即行動を開始した。この両将とも沈着、忠実で同じように曹操からの信頼も篤い。


 続いて、張遼、徐晃、関羽を呼び出した。


「皆軽騎兵を用意せよ。于禁、楽進らが袁紹らを誘引後、白馬へ急行し、顔良軍を破る」


 曹操の指示を受け、関羽らは軽騎兵を揃えるべく、軍の選抜に向かった。


「曹操様の麾下としては初めての戦ですな」


 張遼が関羽に話しかけた。


「うむ。張遼殿、徐晃殿よろしく頼み申す」


 関羽が二人に頭を下げる。


 徐晃は素っ気なく頭を下げ、立ち去った。


 張遼は関羽と知己があるが、徐晃にはない。関羽の武勇の程と義理堅い人柄は知っているし、認めているが、曹操に降ったにも関わらず、劉備の下へ帰るというのが納得いかず、距離を置いていた。

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