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第4話

「ならん。父上からは包囲せよとのみの指示だ」


「はっ」


 信忠は軍を停めたまま、こまめに城内の様子を探らせた。同士討ちは止まることなく、激しさを増している。


 この状況でも信長から進軍の指示がない。


 信忠がやきもきし、突入の命令を待っていると、突如地面が揺れだした。


「地震か?」


 信忠以下全ての将兵がそう感じた。しかし、揺れとともに城内に爆発が起こる。


 爆煙が立ち込め、北海城からは爆風に飛ばされた瓦礫や木片が降り注ぐ。


「信忠様、こちらへ」


 兵らが木の盾で信忠を守り、信忠の指示で軍は安全そうな場所まで後退した。



 信長、道三、臧覇全ての部隊が同じ様に後退を余儀なくされた。


「久秀めが」


 信長は吐き捨てるように呟いた。


 城内へ突入していたならば、全滅も考えられる規模の爆発である。城内の兵はもとより、久秀も生きてはいないだろう。


 やり返すこともできず、勝ち逃げされたような気分に信長は著しく腹を立てた。


「官渡へ向かうと信忠と蝮殿に伝えよ。臧覇軍に北海城は引き渡す」


 信長本軍は南門から西へ移り、道三と合流した。


「蘭丸、陳登殿。無事で何よりじゃった」


 道三は蘭丸と陳登の労をねぎらい見舞う。


「婿殿、形はどうであれ、生き残った我らの勝ちじゃぞ」


 続けて無愛想な信長を諭すと、陣に戻り、進軍準備を開始した。


「本隊はしばし信忠軍を待つ。皆少し休むがよい」


 信長からの指示が下った。自身も、精神的にも体力的にも消耗して疲れていたようだ。


 信忠が追いつくまで行軍を停め、休憩に入ることとした。


 先行した竹中隊は青州国境を越えたと報告があるので、そんなにゆっくりとはできないが、久しぶり に気を抜ける休憩に兵らは喜んだ。




「信忠様。信長様より後事は臧覇殿に任せ、軍を官渡に進めよ、と」


「うむ。しかし趙雲殿が心配だ……」


 信長の伝令は承知したが、爆発に巻き込まれたかも知れない趙雲が気になる。


「趙雲殿は私共が探します。殿は官渡へ。すぐ追いつきます」


 見かねた近習の兵が申し出た。信忠は素直に頼み、先に進むため号令をかけた。


 信忠はそのまま北海城南を進んだ。南門は破壊されたままの状態で城内が見渡せる。


 だがあまりの惨状に誰もが直視できないでいた。信忠らは一旦軍を停め、冥福を祈り再び進みだした。


 なんの弊害もなく、滞りなく本隊と合流すると、信忠は兵らを休ませ、信長の下へ向かった。


「父上、ただいま戻りました」


「信忠か。つつがないか?」


信長はまったりとした笑顔で信忠を迎えた。


「はい。私は。ただ趙雲殿は北海城への抜け道に突入し、消息を断ちました」


「趙雲がか……」


「今、部下が探しに出ております」


「無事だとよいが。此度の戦で、新たに登用した将のほとんどを失ってしまった。趙雲ほどの武将は得難い」


「そうですね。新たに武将を登用せねば。趙雲殿は無事であると信じております」


「うむ。今日一日は体を休めよ。明朝官渡へ出立する」


「承知しました」


 信忠はそう言うと信長の幕を出て、自陣に戻った。趙雲の無事を祈りつつ、つかの間の休息に羽を伸ばしていた。


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