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第3話

「後ほど信長殿に尋ねよう。しかし信長殿がそのようなことをしたとて、貴様の罪が消えるわけではない。覚悟せよ」


 趙雲は槍を構え、今にも久秀に飛びかからんとしている。久秀は趙雲に向けている火縄の銃口を下ろした。


「覚悟?覚悟はもうできておる。もうじき面白いものが見れよう」


 久秀が話し出すと同時に、地上の方から剣戟のぶつかり合う音や喚声が聞こえてきた。


「始まったようだな」


 久秀はぼそっとつぶやくと、火縄に火をつけ、上階に銃口を向けた。


「趙雲、南門の爆破はいかがであったかな?」


 久秀が問う。


「貴様、まさか!皆、撤退せよ。奴はここを爆破させるつもりだ」


 兵に動揺が走る。


 趙雲は咄嗟に久秀に向け、槍を投げた。


 槍は久秀の胸目掛け一直線に飛んでいく。


 久秀はかわす素振りすら見せない。そのまま槍は久秀の腹部を貫いた。


「もう、遅いわ。上では、信長軍と、儂の軍、が、戦っておろう」


 久秀は息も絶え絶えに語り続ける。


「名将、趙雲と、死ねるならば、悔いはないのう……」


 久秀の指が動いた。火縄銃の雷音が唸りをあげる。


「ふふふ、はっはっは」


 久秀は吐血しながらも声を張り上げて笑った。上の方で爆発音が起こり、数多の瓦礫が久秀に降り注ぐ。


「逃げるぞ」


 趙雲は兵に呼びかけ、洞穴へと退去を始める。だが爆発は連鎖し、いたるところから瓦礫が降り注ぎ、兵が押しつぶされる。


 さらに巨大で耳をつんざく爆音が響き、地下室が揺れる。趙雲らは立っていることもままならず、よろけ、倒れた。


 次第に地下室にも爆発は連鎖してくる。久秀がいた辺りからは炎が吹き出し、黒煙があがる。


「趙雲殿を守れ」


 兵の一人が叫び、兵らは趙雲の下に集結した。


 落下する瓦礫や土砂は攻撃の手を緩めず、それどころか激しさを増して降り注ぎ、炎は酸素を奪い息苦しく、熱風がじわじわと体力を奪う。


 兵らはそれでも趙雲を守るべく、瓦礫や炎からの盾となっていた。


「皆、どけっ、私よりも自身を守れ」


「へへ、儂は足が潰れて動けません。他の者も動けない。動いたら趙雲殿に害が及ぶ。死んでいる者もいる。我らのことは気にせず、生き延びてくだされ、それが我ら全員の願いです」


「君らを犠牲にしてまで生き延びれぬ。どいてくれ」


「申し訳ない、もう、私も動けそうにないです」


 兵らの体力はどんどん奪われていく。趙雲も必死に動こうとするが、兵らにがっしり守られていて動けない。


 爆発はまだ連鎖的に続き、ついに火薬庫全体が爆発した。爆風は凄まじく、あらゆるものを吹き飛ばした。





 時は少し遡る。


 信忠の下に信長からの指示がくる。


「徐々に包囲を狭めていけとの命令じゃ」


 信忠は軍をゆっくり進軍させた。松永軍はすでに先に進んでおり全く見えない。


「少し進軍を早めるか」


 信忠軍は北海城が遠目に見える位置まで進軍を急いだ。松永軍との遭遇はない。


「この辺で行軍を一時停める。物見は北海城までの範囲を探って参れ」


 信忠の指示に斥候が飛ぶ。ほどなくして情報がもたらされた。


「北海城の東西南北は織田、曹操軍が取り巻いております。また北海城では袁紹軍と松永軍がぶつかり合っている模様」


「同士討ちか?父上の狙いはこれか?」


「進軍しますか?」


 近習の兵が尋ねた。

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