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第20話

「信忠様、前方に軍勢が」


「趙雲殿か?」


「いえ、先頭を走る大将らしき男は黒い鎧の老将です」


「老将?まさか久秀?迎撃態勢を取れ」


「はっ」


 まさか久秀が戻ってくるとは思わなかった。味方部隊と合流したところで北海進軍は無謀すぎる。


 信忠は守りを固めさせ、久秀の軍勢を待った。


 久秀が大駆けに駆けてやってくる。後続の兵たちも死に物狂いで駆けてくる。


 鬼気迫るその進軍は信忠軍に威圧感を与える。


 そのまま突撃してくるかと思いきや、久秀は信忠の陣を避けて、さらにひたすら駆けていく。松永兵たちも戦わず、逸れていった。


「なに?本気で北海を落とすつもりか!?いや、袁紹に合流するかも知れん。すぐ後を追え。今更罠もあるまい、追撃じゃ」


 信忠は久秀の意図を読めなかった。北海にまだ爆破の仕掛けがあると考える方が無理だろう。


こ の先の進路は北海の他に袁紹領の南皮なんぴなどに向かう道がある。野望が潰えて、再び袁紹の下へ潜伏するつもりならば南皮方面に逃げてもおかしくない。


 どんな意図かはわからないが久秀を生かしておくことは危険である。追撃準備に移行が終わると、信忠は先頭に立ち兵を鼓舞した。


「久秀を討った者、恩賞は思いのままぞ。なんとしても逃がすな。必ず討ち取れ!」


 そう叫ぶとそのまま信忠は馬を返し、久秀を追いかけた。


「殿に負けるな!」

「手柄は儂が挙げる!」

「恩賞は儂のもんじゃぁ」


 その効果はよほど高かったようで、兵の士気はすこぶる上昇している。皆が思い思いに声を上げ、信忠を追い越せとばかりに一斉に走りだした。




 一方、岡らの激しい抵抗に足止めされていた趙雲も、一人また一人と着実に倒し、ついには岡をも討ち取っていた。


 悪逆非道な松永の配下とはいえ、主君のために身を投じるその忠誠心は感嘆せざるを得ない。


「だいぶ遅れたな……だが」


 趙雲は槍の手入れを簡単にしながら嘆いた。


 壮絶な忠勇の士を野晒しにし、盗賊や野盗の餌食にされるのは気がひけ、先を急ぎたい気持ちを抑えつつ、岡の亡骸を近くの茂みの深くに隠し弔った。


「簡易だがこれにて許されよ」


 目を閉じ、合掌すると、馬に飛び乗り再び松永を追いかけた。



 その頃。


 道三と臧覇も臨湽の袁紹軍を北海城へと追い込んでいた。


 果敢に北、南、西各門から攻めたてられた城兵らは、自然と敵のいない東門へと追いやられていた。いや逃亡の方が正しい表現であろう。


 戦意喪失した兵らは東門から次々と溢れ出 し、一番近い城、北海城へと向かっていた。


「あとは信長殿がうまく事を運んでいるかどうかですな」


 臧覇が不安の表情を浮かべると、元々気難しそうな顔がさらに渋く、不機嫌そうに見える。


「なぁに。信長殿のことならば心配いらんよ。さて儂らも北海城へ向かうといたそう」


 渋面のゾウ覇とは対称的に、道三はからからと笑い声をあげる。


 普段は陰険そうな顔つきの男がこうも屈託のない笑顔を見せると、えもいわれぬ安心感を感じる。


「信頼が篤いのだな。そうだな、最後の追い込みをかけようか」


 道三の笑顔に釣られ、ぞ表臧覇の表情も崩れた。


 そのまま部下にひかせた馬に跨り、個人の配下である騎馬隊を引き連れ、袁紹軍の追撃に向かった。


 曹操に仕える前は、呂布の騎馬隊の一角を担っていた男で、馬の扱いはお手の物であった。

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