無造作に久秀を追う雷薄隊と、それを待ち迎える飯田隊が衝突した。勢いに乗る雷薄隊ではあるが、隊列も何もあったものではなく、烏合の衆となんら変わりない。
こうなれば戦局は簡単に決まる。受ける飯田隊に雷薄、陳蘭は散々に打ち破られた。
兵たちはもとより雷薄と陳蘭すら散り散りになり、逃げ落ちていく。
飯田隊は勝ち鬨をあげ、戦勝を喜びあっていた。だがそれも束の間であった。
北海方面より駆けてきたたった一騎の武将に飯田源基が呆気なく突き殺されたのだ。
ほんの一瞬の出来事である。
その騎馬武者は物凄い勢いで駆けてくると飯田隊の制止を歯牙にもかけず、大将らしき男に一直線に近寄り、手にする槍で突き、そのまま走り去っていった。
飯田隊の兵たちは突然の出来事にただただ呆然としていた。
「岡!」
「これは殿。いかがなされたか?」
「信長よ。奴の軍に北海を破られた」
「なんと!」
「今は期に乗じて追ってきておる。迎え討てるか?」
「無論、海老名殿迎撃準備を」
岡は海老名に指示を与える。海老名は頷き、走り去っていった。
「北海にはまだ仕掛けがある。追っ手を破り北海へ戻るぞ」
「信忠様、蘭丸殿らが」
信忠の部下が北海から逃げてくる蘭丸たちを見つけ、報告した。
「保護せよ」
爆発により崩れ落ちた南門を眺めながら信忠は言った。ほどなくして、蘭丸と陳登を抱えながら弥助の部隊が着陣した。
信忠はすぐ近くに寄り、蘭丸の手を取る。
「無事であったか、陳登殿も弥助も。後方から父の軍も続いておる。ゆっくりと体を休めるがよい」
「心遣い感謝いたす。だが趙雲殿が久秀を追っておる。のんびりしてはおれぬ」
「なんと趙雲殿が?そういえば雷薄も見当たらぬな」
「部下を南門の爆破で大量に失ったのだ。仇討ちするつもりであろう。雷薄は見ておらぬが」
「蘭丸殿、我らは趙雲殿の救援、援護に向かう。父上に北海の守備を頼むと伝えてくだされ」
信忠はそう言伝するとすぐに兵をまとめ、北海東門の街道を進軍し、趙雲を追いかけた。
少し追いかけると、織田軍の兵が駆け逃げてくるのに遭遇した。
「おぬしらは雷薄の軍ではないか。なぜここに?」
信忠は少し語気を強め尋ねた。
「はい、雷薄様と陳蘭様が東門に向かうと、そこで敵大将に遭遇し、逃げたため追っていたのですが……」
ここまで聞いて、信忠は悟った。久秀を追っていた兵が逃亡しているなら、久秀方の伏兵か援軍があり敗れたのだろう。
「雷薄と陳蘭は?」
「行方知れずです」
「致し方あるまい……ところで趙雲殿を見かけなかったか?」
「趙雲殿かはわかりませんが、騎馬武者が一騎駆け去っていきましたが」
「そうか。ご苦労であった。直、北海に本軍が到着するはずだ。合流するもよし、我らに編入するもよし。好きにいたせ」
その言葉を聞き、逃亡兵らは北海方面への道を一目散に逃げていった。
信忠は再び進軍を開始し、さらに東へと向かう。街道には武器やら軍旗やらが散乱としており、戦闘の跡を残していた。
信長軍の死者が少なくないことからも遭遇戦であることが見て取れる。
信忠は兵らの亡骸に合掌し、冥福と復讐を誓った。
「信忠様、敵将らしき死体が。槍で胸を一突き、凄まじい腕前でございます」
兵たちは死体を担ぎ上げ、信忠に報告する。
「これは、松永方の飯田ではあるまいか。おそらく趙雲殿であろう、我らも急ぎ援護しよう」