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第17話

「南門に放て!」


 久秀の声。


 弥助らが楼閣の方を振り向くと、にがりきった顔の久秀と大筒のような物が存在していた。


 それは爆発音を轟かせると崩壊したが、燃え盛る炎の矢の束を打ち出していた。その束は空中で分散し、南門の反乱兵部隊と趙雲隊に降り注ぐ。


 南門を既に抜け、部隊の先頭にいた趙雲は流れ矢に注意を払うだけで良かったが、中団の部隊は炎の雨の中を逃げ惑う。


 さらに後方の部隊は南門入口付近にて矢雨を受けた。門が遮蔽物となるため、多くの兵が身を隠す。


 しかし、門は白煙をゆらっと上げると、木っ端微塵に爆発した。その爆発は紀霊隊の時とは桁が違う。


 崩れた門の破片がさらに追い討ちをかけ、趙雲隊は一気に壊滅状態となった。


「な……」


 その光景を目の当たりにした趙雲は、あまりの出来事に声を失った。


 まさか自分の拠る城の門にまで爆弾を仕掛けているとは想像もつかなかった。一歩間違えれば久秀自身危うい目に遭う。


 趙雲は南門の兵たちに黙祷すると、馬に鞭を打ち、単身久秀の首を穫るべく動きだした。


 そんな中久秀は爆発のどさくさに紛れ、東門を抜けようとしていた。


「殿、一騎追ってきております!」


「なに?一騎ぐらい貴様らでなんとかせい」


 久秀は近衛兵に怒鳴った。


 数名の兵が一騎の追っ手を防ぐため、後方に下がる。


 だが近衛兵らは断末魔の叫びをあげ、あっという間に斬り伏せられた。


「我は趙子龍。松永、貴様の首を我が兵らの墓前に供えてくれよう!」


 趙雲は近衛兵らと槍を合わせながらも、久秀を視界に納めると名乗りをあげた。


「趙雲だと?」


久秀は東門を急いで抜けると、手綱をしごき鞭を打ち、馬を急がせた。


 早いところ岡の部隊と合流しなければ、一騎当千の趙雲相手では警護の兵力が心もとない。


「敵大将と見受けた。その首置いていかれよ」


 逃げる久秀軍の側面を雷薄と陳蘭が襲いかかる。


雷薄らは戦功を横取りすべく、信忠隊にも趙雲隊にも合流せずに東門に陣取っていた。


「おのれ、伏兵か!」


 久秀がそう思うのも無理はない。それほど松永方にとって都合の悪い襲われ方であった。


「岡に合流するまで逃げるぞ」


 久秀はさらに馬を急がせる。だが戦功に貪欲な雷薄らは当然のように追いかけた。


「しつこい!」


 久秀はぼやくとさらに馬を追い、速度を上げた。


 そのまま逃げていると、ついに待ち焦がれた味方の部隊らしき砂煙が前方に上がった。


 その部隊が掲げる旗は藤。松永家の家紋だ。


 青州抑圧に久秀が送り出した軍で、海老名友清えびなともきよ森正友もりまさともなど有力家臣が多数存在する主力部隊である。


「あれは……殿!?」


 先鋒隊の勇将、飯田源基いいだげんきが久秀を発見した。


 久秀の後方から砂塵が舞い上がっており、見方によっては久秀が兵を率いているようにも見える。


「岡殿に久秀様発見と伝えよ」


 飯田はすぐ隣の兵に伝えると単騎久秀の下へと駆け出した。


「殿!」


 飯田は久秀に声をかけると馬を併せた。


「飯田か!後より来るは信長の軍勢じゃ。迎え討てい」


「はっ」


 久秀はそのまま岡の軍へと走り去った。飯田は久秀の命に頷き、すぐさま自軍へ戻ると、進軍を止め迎撃のため陣形を整えた。


「貴様ら、どこの軍だ!」


 久秀を追う雷薄が待ち構える軍に迫った。そのまま止まることなく大音声で問いかける。


「松永軍の飯田源基じゃ。我が槍の餌食にしてくれよう!」

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