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第14話

「発破隊がやられたなら信長の手の者が近くにいたのであろうが。逃げれば当然後をつけられる。念を押し、城門から入ればよいものを。誰ぞ居るか!兵を連れ、通路の辺りを隈無く調べよ」


 久秀は額の血管が破れんばかりに激怒し、その怒りに触れ、久通はうなだれた。


「これは儂の責任じゃ。儂にやれせてくだされ」


 肩を落としていた久通はふいに顔を上げると、隠し通路近辺の探索を久秀に懇願した。


「いくら血の繋がった倅とて、次はないぞ?」


 久秀は一つため息をつき、冷たい視線を久通に送る。


「功を成し、失った信頼取り戻してみせまする」


 久通は血気に盛る顔つきで久秀に言い返した。


「ところで父上。交渉も決裂したので、人質は儂の自由にしてもよろしいか?」


「ふん、何か企んでおるようじゃな。よかろう好きに致せ」


 久通の目つきが執念深い蛇のように変わった。そのまま厭らしく笑うと、部下を引き連れ、蘭丸たちの所へと向かった。


 蘭丸と陳登は再び幽閉されていた。


 久秀と対峙し、信長の降伏もしくは撤退の説得をするように言われたが、当然するわけがない。


 蘭丸も陳登も即答で断った。


 久秀とてそのくらいは容易に想定できていたため、二人を殺さず軟禁して次の機会を窺い、久通を信長への使者に派遣する。


 同時に北海へ至る道に火薬を埋め、あるいはばらまき、信長の進軍の足留めを謀った。


 火矢を放てば、簡単に着火し爆発する。地雷の先駆けのようなもので、三国時代にも戦国時代にもない新たな武器である。


 それで足留めし、人質を交渉材料に使う。ありきたりな戦略だが効果は一番高い。だが信長は脅しには屈せず、軍を進めて来ている。


 蘭丸らはそこまで詳しくはわからないまでも、城内の慌ただしさから松永軍の戦況が不利であることを悟っていた。


「貴様ら、信長の……ぐわっ」


 静かな牢獄内に獄卒の声が響き渡った。


「こっちだ!」


 蘭丸は信長の手勢が救出に来たことを知り、声を振り絞り助けを求めた。


「ラン!」


「弥助か!」


 弥助が蘭丸の声を聞き取り、軟禁されている牢へたどり着いた。


 弥助らは鍵を開け、弱っている二人を担ぎだした。他にも捕らえられている者がいたため、それらも解放し味方に加えた。


 蘭丸も陳登も弱りきっていて歩くのがやっと。


 そのため数名で支えながら逃げ、弥助が先頭に立ち松永、袁紹の兵をなぎ倒し進むが、牢獄を出たあとは単純に戦力不足であることを否めない。


 それでも敵兵たちはお構いなしに群がり、襲ってくる。


 弥助らは蘭丸と陳登を中央に円陣を組んだ。


 迫り来る敵兵を切り払い、投げ飛ばすも、あとからあとからきりがない。


「すでに入り込んでおったか、衛兵隊行け」


 久通が慌て駆けつけ、重装備の衛兵を弥助らの包囲に向かわせた。


「味方部隊が囲まれているぞ、救援に向かえ」


 そこへ信長の命を受け、隠し通路を辿ってきた劉勲の部隊が到着し、久通軍の包囲を破ろうと突撃していく。


 これにより城内の一角は敵味方入り乱れた大乱闘となった。


「久通は何をしておるか!」


 当然報告は久秀にも届いていた。久秀は怒り心頭、顔を真っ赤にして怒鳴った。


「隠し通路を破壊し、蘭丸らの逃げ道を潰せ。間もなく信忠も攻め寄せてこよう、それまでには決着をつける。最悪、北海城を放棄せねばなるまい……」


 久秀は部下に指示を出すと、自ら立ち上がり、牢獄へと向かっていった。


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