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第13話

 それなりの地位にいる武将で、軍歴も確かなのだろう、手際が良く、判断に迷いがない。


 道三は頼もしく思いながらも、曹操麾下の層の厚さに恐ろしさも感じ、内心舌を巻いていた。



「殿、信忠様の早馬が到着しました」


 信忠軍の兵士は緊急の事態ということで作法を簡易に済ませ、話し出した。


「先の爆発により、本隊より先行していた紀霊軍壊滅。紀霊殿、副官共に戦死。本隊は被害なく、現在爆発地の整備にとりかかっております」


「紀霊の先行は信忠の指示か?」


「いえ。紀霊殿の独断で」


「……功に焦ったか、己の力を過信したか。それなりに買ってはいたのだが」


 信長は残念そうな表情を浮かべた。戦歴が豊富なだけに信忠の補佐につけ戦場経験を積ませるつもりでいた。


「仕方あるまい、信忠に伝えよ。より一層警戒を強め、なおかつ迅速に進軍せよ、と」


 信忠の兵はそれを聞くとすぐ先陣に戻っていった。続け様に、弥助の部隊からの報告があった。


「よし、他にも兵を分け、侵入させよう。蘭と陳登を救助する隊と、城攻めの伏兵の隊と別れ任務に当たれ」



 信長本軍が進軍を再開してまもなく、先発隊の方から爆発音が轟く。日が傾きかけてきるというのに白煙の舞い上がるのがはっきり見えた。


「松永か……!誰ぞ、信忠軍の様子を見て参れ」


 信長はこの爆破は松永軍の仕業と感じ取り、信忠軍の安否を探るよう指示を出した。


 正確な距離まではわからないが、爆煙の目測と信忠軍の進軍速度を推測する限りでは、信忠軍に被害はないはず。


 信長は本隊の進軍速度を緩めさせつつ、前方に立ち上る白煙を見つめた。


 以前信忠から聞いた松永久秀、久通父子の最後の場面が信長の脳裏に浮かぶ。上杉謙信と険悪になった信長を松永父子は裏切り、信長包囲網に加わったのだ。


 信長は信忠に四万の大軍を与え、居城の信貴山を攻めさせた。


 堅城に籠もり、頑強な抵抗を続けていたが、部下の裏切りにより崩れた松永久秀は、自慢の城と信長が欲した茶器とともに爆死したのだった。


 久秀はその爆破を強力な武器に転用することを思いついたのだろう。


 信貴山の築城や、奸智に長けていると思えば、茶道や和歌、挙げ句には房中術にも長ける、そんな器用な男だ。


 信長は劉勲に兵と指令を与え、北海城の隠し通路に向かわせ、紀霊軍の補助として雷薄を信忠軍に遣わし、他の隠し通路を探るため陳蘭に指示を与えた。


 本隊の兵力は薄くなるが、本格的な戦闘になる前には後詰めの軍も駆けつけよう。


 信長は急ぎたくても急げないもどかしさを、確実に松永を葬るための戦略を練ることに費やした。





「父上、今戻りました」


 北海城に帰り着いた久通は、苦虫を噛んだような渋い顔をしていた。


「首尾は?」


 久秀は低いくぐもった声で一応聞いてはみたが、久通の顔に全てて表れている。


「信長めは我らの策をにべもなく断りおったわ」


「やはりのう、そう容易くはいかんか。発破隊は?」


「敵将一人討ったが、大勢に影響を与えるほどではなし。続けて襲撃するも、信長の手の者に阻まれましたわ」


 よほど悔しいのか久通はしきりに舌打ちをしながら話している。


「城内への通路は探られてなかろうな?」


 久秀の問いかけに久通は無言であった。


「まさか確認してない、などと言わんよな?」


「いや、発破隊数名がやられたので……」


「この愚か者が!」


 久通の言に久秀は強い怒りを覚え、厳しく叱責した。

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