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第11話

 やや時間を置いて、斥候からの最初の報告があった。


「紀霊殿及び副官らしき人物の遺体を発見しました。また爆心地には火薬と硝薬が埋め込まれていました。火矢にて爆発をさせた模様」


「……やはり生きてはおらぬか」


 信忠は小さな声で悲しさを滲ませた。そして斥候に新たな指示を与える。


「この先の軍路にまた同じ仕掛けがされてあるやもしれぬ。探索しておいてくれ。また火矢を放った敵兵がいるならば、抜け道や裏道が隠されていよう。探し出せ」


 斥候兵は信忠からの指示を受け、すぐさま任務に就いた。


 また信忠は別の兵に、紀霊以下数十名の遺体を片付け、進軍路を確保するよう命じた。


 兵たちは荷車に遺体や爆発した際の色々な欠片を拾い集めながら移動した。


 進路確保と情報収集が終わるまでは進軍はできない。


 信忠は焦り、苛立つ気持ちを落ち着かせつつ待っていた。




 久通の後を追っていた弥助たちにも爆発音が聞こえた。その音に気を取られた一瞬の隙に、弥助たちは久通の姿を見失った。


 辺りを見回して痕跡を探すが、如何せん森の中、見つかるはずもない。


 弥助らは手分けして探すことにし、森林の中を分散した。


 他の仲間と別れた弥助は、北海城の方角へと慎重にそれでも素早く行動していた。


 森の暗さにも目が慣れ、動きはますます機敏になっていく。それもそのはず、弥助はこのような状況を得意としていた。


 視力、聴力、嗅覚は織田家中随一であり、着衣を黒くすれば、夜の闇に紛れることもできる。


 剣術の基礎を教わり、普段は帯刀しているが、本来は短剣や手甲を活かした体術を駆使する戦い方を得意としていた。


 忍びの訓練まではしていないが、それでもこの条件下なら並みの忍びに負けることはない。


 そんな中、弥助はほのかに漂う油の臭いと松明の燃える臭いを嗅ぎ取った。薄暗い森林の中、松明の臭いは、いかにもきな臭い。


 偵察、尾行の任務を請け負う仲間が火を使うとは考えにくい。


 音をかき消すように近づいていくと、ほんのわずかながら開けた場所に、松永の兵が十人ほど集結していた。炎に照らされる顔の中に久通も確認できる。


 松永兵の手には弓が握られていた。矢尻には布を被せてあり、おそらく油を染み込ませてあるだろう。


 弥助は松永兵を中心のする周囲を索敵して歩いた。この場所に気づいたのか、弥助の仲間も二人ほど隠れ、様子を窺っていた。


 弥助らは目で合図を交わし、松永軍を監視する。久通が何かを小声で話しているのだが、さすがに聞き取れない。


 直に松永兵は松明を消し、行動を開始した。移動方向は北海城の方角であり、松明の灯りに目が慣れた弥助は松永軍が動く音を頼りに、尾行を再開した。


 北海城に近づくにつれ、異臭が漂ってくる。掘り返された土の臭い、木や枝が焼け焦げた臭い、動物が焼けた臭い。


 おそらく、先ほどの爆発音の発信源であろう、と弥助は感じた。


 松永軍は立ち止まり、息を潜め始めた。同時に弥助も動きを止め、闇に潜り込んだ。

次第に声が聞こえてくる。


 声の主は複数で、何らかの作業をしているように感じられた。


 弥助が軍路を覗き込むと、見慣れた軍旗と兵装が目に入る。味方の部隊だ。


 それを確認した目の端にぽっと光が灯る。


 松永軍による、味方部隊への襲撃。


 松永軍を制しようにも、今からでは間に合いそうもない。


 弥助は猛獣が吼えるかなような大声をあげ、近くの木に登った。


 味方部隊の部隊がこれを耳にし、警戒態勢を取ってくれること、松永軍の攻撃が少しでも遅れることに期待した。



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