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第10話

「先鋒隊に進軍命令じゃ。迅速に北海城を攻めよ」


「後悔するぞ、信長!」


 久通は捨て台詞を吐き、信長の陣を去った。だがその際の顔つきに薄ら笑いを見たように感じた信長は、弥助他数名に尾行を命じた。


「何か裏がありそうだ、後を追い、報告せよ。また北海城に忍び込めるようなら、蘭丸と陳登を救出して参れ」


 弥助たちは命を受け、即行動を開始した。


「よし。本軍も進軍開始だ」




信忠が信長の使者を受け進発の指令を下す。


 新参で軍功はないが、袁術麾下として数多の戦を経験した将である紀霊は素早く軍をまとめ、いち早く進軍を開始した。


「信忠様、一番手柄いただきますぞ」


「紀霊殿、充分用心し進まれよ」


 信忠は焦りの見える紀霊を危ぶみながらも、その士気の高さを頼もしく思い、注意を促しつつも励ました。


 紀霊に続き、趙雲と信忠が軍を進めた。

趙雲と信忠は相変わらず斥候をしぶとく出しては注意深く、先へと進んでいった。


 紀霊隊の進軍速度はすこぶる早かった。


 抵抗勢力もいなければ、北海城まで続く整備された軍路もそれを助長した。


「紀霊様、信忠様の軍とだいぶ離れてしまいましたが……」


「構わん。信忠殿は用心深すぎる。まだ若いし、戦場の空気を読めんのだろう」


「しかし、孤立する恐れが」


「心配するな。伏兵がいれば、信忠殿より待機の指示があろう。あれだけ密偵を出しているのだから」


「はぁ、そうですね」


「うむ。ここは儂の経験から城を一気に強襲するのが良いと見た。飛ばすぞ」


 紀霊は副官の心配を余所に、己の戦場経験を過信してぐんぐん進んでいった。


 遠巻きながら北海城が見え始める。


「ようやく北海か。ひと揉みにして、軍功を挙げるぞ」


 紀霊はさらに加速し、ついには陣頭に立った。敵がいなかったことから油断も見える。気づけば兵たちをだいぶ置き去りにしていた。


「遅いな」


 一旦立ち止まり後方を振り向き、副官に愚痴をこぼした。


「紀霊様、なにやら臭いませんか?」


「ん?」


 異様な臭いを感じた副官が紀霊に告げた。


「火薬のような臭いだが……」


 その時数本の火矢が飛んできて、地面に突き刺さった。


 矢の刺さったところから、白い煙が吹きだし、地面が一気に破裂した。


 激しい爆発音が辺り一帯に響き渡り、土砂や木の葉、枝などが舞い上がる。


 爆煙はもうもうと立ち込め、視界を遮り何も見えない。だがその爆煙の中からは、この世のものとは思えないほどの阿鼻叫喚が、絶え間なく響き続けていた。



「何事か!」


 信忠は進行方向から聞こえる爆発音と天まで昇るかのように巻き上がる爆煙を目にし、驚愕した。


「信忠様、紀霊軍の兵たちが逃げ戻ってきております」


「呼べ!」


 衛兵に信忠は怒鳴り、返答した。


 逃げ戻って来た兵がいうには、先に進んでいた紀霊軍が突如爆発したらしい。


 紀霊以下副官の生死までは確認できないが、爆心にいたため生きていない可能性のが高いのでは、とのことだった。


「あれほど用心せよと言ったのに……斥候隊、爆発地の様子を探って参れ」


 信忠は手を強く握りしめ、唇を噛んだ。


 短い付き合いではあるが直属の部下を失う痛みは大きい。趙雲もこの状況を歯噛みして悔しがっていた。


 信忠は進軍を一時停め、信長に報告の使者を派遣した。

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