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第4話

 その陳登の声は久通にも聞こえていた。


「簡単には逃がさぬわ」


 そう言い終えると、松永軍は蘭丸たちにも攻撃を開始した。数名は取り囲むように動きだす。


 久通は相も変わらず、後方でにやついていた。


 陳登と蘭丸は正面から押し寄せる松永軍をさばき、弥助と趙雲は側面の松永軍と対峙していた。


「この軍路では数に押し負ける。道を切り開き、茂みにて迎え討ちましょう」


 趙雲はそう言うと、右側面の松永軍をなぎ払った。


「皆さん、こちらに」


 まず弥助が茂みへと入った。蘭丸、陳登が続き、趙雲が殿をしている。


 後方や側面にあまり気を配らず、正面の敵だけに対してならば、負傷していても趙雲の武は揺るがない。


「陳登殿、趙雲殿の援護を。我らは奴らの後方に回り、久通を狙う。撹乱することにも繋がろう、弥助参るぞ」


 蘭丸と弥助は茂みを奥へと進み、陳登は趙雲の横に並び、松永軍を相手にしていた。


「ええい、たかが四人、まだ倒せぬか」


 久通の顔が渋く、険しくなる。そして振り向いて、袁紹軍にも苛立ちながら指示しだした。


「貴様らも動かんか!」


 袁紹軍は不意に怒鳴られ、ばたばたと走りだし、松永軍とともに趙雲らを攻撃しだした。


 趙雲と陳登は迫りよる敵兵を切り払い、突き飛ばし、寄せつけない。


 久通はさらに苛立ちが募り、とうとう自ら刀を抜き、趙雲に近づいていく。


 蘭丸と弥助は、茂みからその様子をうかがい、今だ、と目配せをして、久通に切りかかった。


 まず弥助が馬の横腹に体当たりした。


 馬も不意の攻撃に体勢を崩し、久通は振り落とされまいと手綱を強く握る。それでも弥助に一撃見舞おうと刀を振りおろした。


 だがそれは蘭丸が弥助の防御にまわっていたため防がれた。弥助はさらに手を伸ばし、久通を突き落とそうと試みる。その企ては成功し、久通は落馬した。


 すかさず弥助が馬に飛び乗り、駆け出した。


 蘭丸は久通の足止めのためその場に留まり、


「弥助、趙雲殿を頼むぞ」


と、久通の動向を目に捉えたまま叫んだ。


 久通もすぐに起き上がったが、蘭丸が刀を振り上げ、走り寄ってきているので阻止できなかった。


 弥助を乗せた馬は雑兵を蹴散らし、趙雲と陳登の下へと進んだ。


 馬の暴走に兵たちは道を開いた。


 松永軍も後ろからの突然の襲撃に、陣形を整えることができず、逃げ惑うばかり。


 さらに弥助は、敵兵を追い抜きざまに槍を奪い取り、やたらめったらと振り回す。


 ある者は槍の柄で打たれ、またある者は切られ、と全く手がつけられない。趙雲と陳登が視界に入ると弥助は獣のように声を張り上げた。


 あまりの雄叫びに、逃げる兵たちも足が止まり、屈んだり縮こまったりしている。弥助はそのまま走り、趙雲らの傍に馬を寄せた。


「ノレ!」


 弥助が片言の言葉で趙雲と陳登を促す。


 だが陳登は趙雲を弥助の後ろに乗せると、強く馬の尻を叩いた。


「陳登殿!」


 走り出した馬の上で趙雲が振り返る。


「蘭丸殿をほうってはおけぬ。こちらはこちらで血路を開く。弥助殿、趙雲殿を頼む」


 陳登は徐々に遠ざかる二人に声を掛けると、振り返り、敵軍の真っ只中へと切り込んだ。



 弥助と趙雲はそれ以後振り向きもせず、ひたすら馬を走らせた。


 徐州は目前。


 趙雲は蘭丸と陳登を命に代えても救いだそうと心に決めた。


 もしどちらかでも殺されたら、その時は松永軍を殲滅してやる、と天に誓った。

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