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第2話

時は少しさかのぼって、徐州。


 信長は在野にいる人材を探し集めていた。


 それと同時に新規兵も雇い入れ、農民にも緊急時のために武器の扱いを指導していた。


 そんな中、信長はいろんな人材を検分しつつも曹操の去り際の言葉を思い出していた。


「最近青州に黒い鎧の軍団が出没するという噂だ。袁紹との関係まではわからぬが、袁紹が軍を動かさないことから、我らの敵とみなして良かろう。軍団を率いる将の名前すら知れない。充分用心されよ」


 この言葉がなぜか心に引っかかる。


 信長がいる、信忠も蘭丸も帰蝶もいる。そして道三と出会った。


 ならば信長の時代からこの時代へ他の誰かが来ていてもおかしくはない。


 信長はそう考えて、その時代での黒い集団を思い浮かべた。ぱっと脳裏に出てくる軍団が二つ。


「蘭、おるか?」


 蘭丸が信長の下に現れると命を与えた。


「急ぎ青州へ向かい情報を集めてまいれ。弥助も連れて行き、昼夜問わず些細な情報も逃すな」


 信長の脳裏に浮かんだ軍団はどちらも危険極まりない部隊であった。


 そのため信長にしては珍しく慌てた素振りを見せている。蘭丸は信長の命を受けると、すぐさま弥助を伴い、青州に向かった。


 青州への案内は、曹操が徐州の安寧のために登用した陳登ちんとうという男が買って出た。


 この陳登という男は、徐州きっての豪族で州内では顔が広く、文武に優れ、とりわけ政治力は抜群であった。


 そのため、代々の徐州領主には丁寧に扱われ、呂布や劉備の政権下でも卓越した統治力を見せた。


 その陳登の案内により、蘭丸と弥助はなんなく徐州と青州の境までたどり着いた。


 様々な木々が茂り、合間を縫うように広い道が続く。聞くところによると、秦の始皇帝が泰山巡幸の際に切り開かれた道路であるとのことであった。


 国境に近いということで、三人は慎重に辺りを見回しながら、茂みの中を進んだ。


「陳登殿、これより先は、我らの……」


「静かに」


 蘭丸が陳登に偵察の任務に入るため、と案内の礼を言い、帰城を促すと、人の気配を察したのか、陳登が蘭丸に呼び掛けた。


 弥助も気配を感じ取り、緊張した面もちで茂みから道路を見つめていた。


「袁紹の軍ですな。少人数ゆえ偵察かと」


 陳登はささやくよりも小さな声で蘭丸に話した。蘭丸は声を出さず頷く。


 袁紹の偵察隊が通り過ぎると、蘭丸は額の汗を拭いながら、小声で弥助に話した。


「例の黒い軍団ではなかったようだ。もっと城に近づいてみようか?」


 だが、弥助は話を聞いていないのか、まだ緊張しているのか、汗を拭いもせず集中している。


「弥助?」


「マダ……」


「ん?」


 弥助は蘭丸の口を手でふさいだ。


 微かだが、甲冑のぶつかり合う音が聞こえてくる。三人は再び息をこらえて様子をうかがった。


 ゆったりとした進軍速度で黒い甲冑をまとった兵士たちが、長い槍を掲げ持ちながら歩いているのが見えた。


 旗印には三国志時代のような姓の表記はなく、蔦が描かれている。


(あれは……大和やまと松永まつながか!)


大和の松永とは松永久秀まつながひさひでのこと。


戦国時代きっての梟雄で、信長をして悪人と言わしめた男である。


 足利一三代将軍の義輝よしてるの殺害、東大寺大仏殿の焼き討ち、主君三好家への謀略、暗殺などを信長は常人にはできない悪事と語った。


 後、信長に降り、金ヶかねがさき退陣の際に信長の命を救う手柄を立てるも、信長包囲網が敷かれると信長に反旗を翻し、最後には茶器を抱きながら、爆死した男である。

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