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第4話

(雲長……)


 劉備は下邳の関羽を気にかけたが今更戻ることはできない。


 利政の助言で放った物見から、沛より進軍してきた曹操軍が目視できる距離まで近づいているとの報告があったのだ。


 劉備は行軍を停止し、陣形を整えた。


「張飛殿に敵の出鼻を挫いてきてもらいましょうか」


 利政の案に劉備は懸念したが、張飛の希望もあり、兵五百を張飛に与えた。


「ちとひと暴れしてくるか」


 張飛はそういうと鈍っていた腕を振り回し、兵を率いて前線へ向かう。


 なだらかな丘陵を越えると、その麓に曹操軍が陣取っていた。


「ん?」


 兵を止めて曹操軍の様子をうかがった張飛は違和感を覚えた。


 目の前の曹操軍は、今まで張飛が見てきた軍とは全く別物。殺気立ってもいなければ、緊張感もない。のほほんとしているのである。


 張飛の軍がもう目前だというのに陣構えを整えようともしない。


「こりゃ、曹操が大将の軍団じゃねえな」


 張飛は敵を見切った。兵の隊列を変え、蜂矢陣を布き、果敢に突撃を始めた。


 猛る張飛は蛇矛だぼうを振るい、誰よりも先を駆け、曹操軍に突っ込んでいった。


「ち、張飛だぁ!」


 虎の如き巨漢がものすごい勢いで向かってくる。馬が小さく見えるほどの迫力であった。

 そして、はちきれんばかりの筋肉の腕や胸はまさに猛獣である。


 その猛獣が火の玉のように突進してくるのだから、兵士たちもたまったものではない。


 寸前まで見せていた余裕などすでになく、蜘蛛の子が散るように逃げ惑うばかりであった。


 王忠は青ざめた。


 兵の群れが割れる。王忠へたどり着く一筋の道ができ、猛虎が真っ直ぐに迫ってくる。


「こ、こら、逃げるな、馬、馬の足を、払え」


 王忠は必死に叫んだ。だが、猛進してくる騎馬に立ち向かうなど一介の兵士にできるはずもない。


 張飛の目が曹操軍の大将を捉えた。うろたえ、動揺している様は見るにたえない。


 このまま一刀の下、斬り捨ててやろうかとも思った。


 だが、


(こんな奴でも一軍の大将。捕らえれば何かしらの役には立とう)


と、考え直し生捕にすると決めた。


 その間に王忠との距離は詰まり、蛇矛を振るえば届く距離。王忠は蛇ににらまれた蛙のように身動きひとつ取れなかった。


 張飛はたじろぐ王忠のすぐ脇を駆け抜け、交差するその瞬間左手を伸ばし、王忠の襟首をむんずと掴んだ。


 王忠の体は宙に浮き、そのまま張飛に連れ去られ、そのまま王忠軍を真っ二つに突き抜けた。


 王忠軍の大将も兵も不甲斐ない様であったため、張飛軍は負傷者を一人もださずに、大将を捕縛する大勝利であった。


 王忠軍を抜けた先には平野が広がっていた。その平野の一点に黒い塊のようなものが見える。


 張飛の虎のような目が鋭く光った。王忠軍との戦闘に物足りなさを感じていた張飛が、次の獲物を見定め舌なめずりした。


 張飛は王忠を部下に引き渡した。急激な勢いで襟首を掴まれ、引っ張られたため瞬間的に窒息したのだろう、気絶していた。


 身軽になった張飛は陣形を整えもせずに突進していく。


 配下の兵たちは慌てて隊列を整え、張飛の後に続いた。



「劉岱様、王忠殿の軍がこちらに向かってきます」


 劉岱の側からはそう見えるのであろう。


 王忠軍がざわついている感じはしたが、まさか敵が王忠軍を突き抜けて、しかも数十騎でこちらに向かってくるとは考えもつかないだろう。



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