「曹操が……利政殿、お見それいたした。我らは如何にすればよろしいか?」
「うむ、彭を捨て沛の軍を破り、曹操本隊が来たら袁紹の下へ逃げるしかあるまいのう……袁紹が動いておれば勝ち目もあったのだが」
「雲長と我が家族は?」
「冷たいようだが……関羽殿を信じて託すよりあるまい。関羽殿が籠城して粘れればあるいは……」
利政の言葉に劉備も張飛も落胆の色を隠せない。だが決断の時は迫っていた。
「よし。雲長を信じよう。我らは彭を捨て沛の軍と戦う」
劉備の決断はそのまま宣告となり、城内が慌ただしくなった。
利政は物見を呼び、沛の軍のさらに詳しい情報を伝えよと命じた。
「沛の軍は二手に別れ、曹操の軍旗を掲げた先発隊が約三千。沛の後方には五枚の花らしき紋様と四角い穴の開いた貨幣の紋様の旗印が翻っている軍が二千が待機中」
利政は疑問を感じた。花や貨幣の紋様の軍旗をこの世界では見たことがない。
劉備ならば『劉』、曹操ならば『曹』が通例となっていたはずだった。
「沛に待機しておる軍は儂と同じような格好をしておらんかったか?」
「そこまでは……」
尋ねてはみたものの利政の心中ではほぼ確定していた。その軍は利政と同じく日ノ本の軍であるということを。そして自分がその軍旗の主を知っているということを。
曹操来襲の報は徐州の兵や民にまで大きな影響を与えた。
兵は大半が元々は曹操配下の兵であり、離散する者が多く、民は過去曹操により行われた徐州大虐殺がまだ記憶に新しく、南方の
そんな中、劉備はようやく兵をまとめて出陣したが、その数は三千ほどであった。
利政は劉備にこまめに物見を出すよう進言した。曹操軍の動きを探るのが主だがやはり日ノ本の軍と思わしき軍団が気になっていた。
進発し、まだわずかな時間しか経たないというのに、西方面の物見から続々と報告が入る。
「曹の軍旗の軍が陳に着陣」
「張遼、楽進を先陣に曹操軍五千が譙に到着」
(いつの間にそんな近くに……)
劉備は唖然とした。
曹操は物見に気づかれぬよう、闇に紛れて神速の行軍を繰り返していた。
物見が気づいた時にはすでに遅く、曹操は陳に到着し、馬を変えすぐさま譙へ行軍していたのであった。