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第2話

 徐州は許昌の真東に位置し、東海に面している土地である。


 漢代以前は彭城ほうじょう項羽こううが都を起き、彭城北部のはいでは漢の高祖劉邦りゅうほうが生まれた。


 この二人が軸となり「楚漢戦争そかんせんそう」を行った。





少し前の彭城では劉備たちの軍議が行われていた。


「劉備様、曹操の軍は現在越境直前の沛近辺にございます」


 物見の報告に劉備はがく然としていた。

話によると、兵数は約五千。率いる将は軍旗を見るに曹操本人。


 まさかな、とは思っていた。


 最大の敵である袁紹をよそ目に、徐州に侵攻してくるのは信じられなかった。いや信じたくなかったのかもしれない。


 旗揚げするや否や、すぐさま袁紹と手を組み、許昌進軍を促し続けていたのだが、当の袁紹は溺愛している末子袁尚えんしょうの病を理由に軍を動かさず、戦機を逃していた。


雲長うんちょう。我が妻子を連れを下邳かひを守ってくれないか?彼の城は呂布が立て籠もっただけで難攻不落の城となった。呂布以上の将であるそなたが籠もれば更に堅城となろう」


 劉備は勝ち目が限りなくないことを悟っていた。そこで義理堅く、信頼の厚い義弟関羽に家族を任せようと思い至ったのだ。


「畏まった」


 関羽は考える時間も必要とせずに請け負い、そしてすでに下邳防衛の任についていた。


 関羽も勝ちはないと感じ、身命を賭しても劉備の家族を守ろうと心の内に誓っていた。




「雲長兄を下邳に行かせなくても曹操なぞ俺が簡単に蹴散らしてやるのに」


 そう息巻いているのは張飛であった。


益徳えきとく。曹操を侮ると痛い目にあうぞ」


 劉備は己の武勇を頼る余りに、敵を甘く見る癖のある張飛を諫めた。


「まあ張飛殿の武勇があれば、沛の軍団なぞは打ち破れようて」


 年老いた男が張飛の軽口に乗っかりと微笑みを浮かべて語った。


利政りせい殿、何を……?」



 劉備はこの老将の言葉の意図を探った。だが残念なことに、劉備を含め関羽も張飛も戦術はかなりのものだが軍略にはさほど長けてはいない。


 だがこの利政と呼ばれる男。劉備が徐州で旗揚げした時に仕官に来た新参者だが、劉備たちに欠ける軍略、奸智の才に長けていた。


 おそらく漢人ではあるまい。しかしその才能を劉備は欲していた。


「劉備殿、曹操軍の行軍経路をたどればよいのじゃ」


 劉備は物見の情報を過去までたどり、曹操軍の行路を頭に描いた。一方の張飛は全くちんぷんかんぷんである。


 利政が話を続けた。


「本来、許昌からはちんしょうを経て、ここ彭にたどり着くのが一番早いはずじゃ。だがあの軍は許昌から官渡、陳留ちんりゅう、山陽、沛と黄河南岸を行軍してきておる。なぜかのう」


 劉備と張飛は考えたがわからない。だが曹操ならばそんな無駄な行動はしないのではないか、と漠然と思った。



「あー、わかんねえ。利政殿教えてくれ」


 粗野な張飛らしい。


「張飛殿。沛の曹操軍は袁紹の動きを見るための陽動も兼ねておると見て間違いあるまい。そんな危険を伴う行動に、たとえ軍旗があろうと曹操本人がいるとは考えにくいのじゃよ」



 劉備はなるほどと思った。確かに迅速な曹操らしくない行動だ。


「曹操の野郎はいねえのか!」


 張飛は大声を張り上げ、目を見開いた。


「だが、袁紹は陽動には掛からない、いや動く気がないが正解かの。となれば曹操が別働隊を率いて最短距離をすでに行軍してきておるであろう」

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