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第1章 邂逅19

「では殿自ら後発すると?」


「うむ。なるべく早くにな。先遣隊は袁紹への偽装も兼ねてあるゆえの人選よ」


「なるほど。袁紹ににらみをきかせつつ、まだ臣民を掌握できていない劉備を速攻撃破するのですな」


 程昱は納得し下がった。荀彧、荀攸も異論あるでもなく頷いていた。


「荊州の劉表はどうなさるか?」


 続いて賈詡かくが問いかけた。


 賈詡は最近張繍ちょうしゅうとともに曹操に降ったばかりの新参である。


 その知謀は切れ味鋭く、過去に曹操も罠にかかり、忠臣典韋てんい長子曹昂そうこう、甥の曹安民そうあんみんを失い、曹操自身も命からがらで逃げおおせたくらいである。



「劉表、奴も袁紹と変わらん……いや、よりひどいな。ともかく袁紹ほど気にする存在ではあるまい、捨て置け」


 曹操はばっさりと切り捨てた。


 賈詡も同調したのか冷たい笑みを浮かべた。


「劉備討伐先発隊は劉岱、王忠に信長殿。後発隊は楽進、張遼。他は荀彧の指揮により許都で待機とす。以上」


 やや場が静まった時を見計らって曹操が最終的な指示をした。


(これが曹操軍の軍議か。活気があり、理解しやすい)


 信長は黙って聞いていただけだが、それだけでも充分理解できるやりとりであった。


「信長殿、ご存知かはわからぬが劉備には一騎当千の強者関羽かんう張飛ちょうひがおる。合戦は我らに任せてくだされ。貴軍の勇猛な兵を無駄にする必要はござらん」


「劉備、関羽、張飛、望むところよ……といいたいところだが貴殿の戦ゆえ、しゃしゃらぬことと致そう」


 信長は曹操の言葉に苦笑して返答した。


「では、信長殿。御武運を祈る」





 信長は半兵衛たちと合流し城門を出た。そしてすぐさま配下の武将を呼び寄せた。


「曹操との軍議により、これより徐州の劉備討伐軍に同行することにした」


 諸将は真剣な顔で聞き、次の言葉を待った。


「蘭。一足先に徐州へ向かい、情報を集めよ。貞勝は女衆と共に汝南へ入り執務及び情報収集を任ずる。汝南統治にはどのような手段が必要か探って参れ」


 任を受けた両名が動く。信長はかまわず話を進めた。


「先陣は可成五百、後陣は信忠五百。本隊は儂が率いる。準備が整い次第出立する」


 指示を受けた諸将が慌ただしく動き始める。


「濃、そなたは如何致す?出来れば汝南へ行って欲しいのだが」


「殿について参ります。何やら胸騒ぎがするのです」


  胸騒ぎとは出陣前と言うのに、と思いつつも、濃姫の顔には不安など一切なく晴れやかな笑顔であった。



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