「なんの。ただし生産はできぬ。大事に扱ってくだされ」
曹操は満面の笑みで感謝の意を伝えたあと、一転して真面目な表情で語り始めた。
「信長殿。この度停戦を決意したのは、正直な所こちらの戦況が芳しくないからです。四方を敵に囲まれている以上、貴軍相手に兵を無駄にできなかったゆえ……」
曹操は、ふう……と一息ついて再び語りだした。
「そこで敵とするよりも味方に引き入れるが有益と考えたのです。どうでしょう?
願ってもない申し出であった。
曹操の状況が信長に味方をしたとはいえ、当初の策が成り、土地と城を手に入れることにも成功したのである。
汝南という土地は南に孫策、劉表が割拠し、東では劉備が曹操からの独立を図り、統治の難しい土地であった。
そこで信長は簡単に引き受けず、念を押した。
「同盟……という形でよいということか?無論協力は惜しまぬが、領地は我らが切り取り自由でかまわぬか?」
「構わぬ。対等な同盟と思ってもらいたい」
曹操は頭を深く下げた。
「委細承知した。では曹操殿よろしく頼み申す」
信長も快諾し、曹操と同じように頭を下げた。信長と曹操は酒を注ぎ乾杯をし、再び固く握手する。
ここに戦国の覇王と三国志の覇王の強力な同盟が締結した。
翌朝。
曹操は信長の軍勢を伴って許都に戻った。貞勝の偵察した城が許都であったのだ。
許都は曹操の勢力の首都で、漢王朝の皇帝も住んでいた。しかし許都のすぐ北の
信長は兵を可成と貞勝に任せ門外で待機させ、諸将を引き連れ許都の城門をくぐる。
そこは活気に満ちた街であった。
建物は木造ではあるが比較的新しさを感じさせ、野菜、果物、肉といった食料品を売る店や茶店、酒場が香ばしい匂いや煙で道行く人々を引き寄せていた。
活発に明るく楽しげに働く人々や整備された街を見れば、曹操がいかに善政を敷いているのかがよくわかる。
そんな街並みを抜け、中央にそびえ立つ宮廷へ向かった。
長い石段を登るとそこには彩色鮮やかに輝く巨大な宮殿があり、文武百官が並び、曹操を出迎えていた。
その中から荀彧が進み出て深々と礼をする。
「ご帰還お待ちしておりました」
「うむ。袁紹は?」
「相も変わらずの優柔不断の様子。将兵に収集をかけるも未だ動いたとの報告はありませぬ」
「では情勢がはっきりするまでしばし許都にて待機していよう」
「は。ところで殿、そちらの御仁は?」
「盟友、織田信長殿だ。汝南を信長殿に割譲した。これから案内させ赴いてもらおうと思っておる」
そう言うと曹操は信長に荀彧を紹介した。
「信長殿は漢の
曹操は荀彧をかなり気に入っているようで、漢帝国創立の立役者である張良と同じようなものであるとまで言い放った。