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第1章 邂逅14

(やはり……かなりの戦上手よ)


 信長は曹操の手腕を素直に褒め称えた。

このままでは両翼に完全に包囲されるであろう。

 陣形を動かそうにも張遼の騎馬隊が虎視眈々と狙っている。


(半兵衛、どう動く?)


 この戦いの采配は半兵衛に委ねた。どういう結果になろうと半兵衛を信じぬくのみである。


 その半兵衛もまた機を窺っていた。信長の戦略を鑑みるにこの戦いは勝利を必要としない。


 両軍膠着してくれればあとはどちらが折れるかの我慢比べである。


 ただ曹操が耐えかねて軍を突撃させるならば、こちらも死兵として戦い抜くのみ。


 火縄の弾丸に限りがあるとて曹操軍五千とはぎりぎりだが対等に戦えるくらいの備えはある。


 曹軍の両翼がゆっくりゆっくりと包囲をしていく。


 翼の先端が信長軍の弓隊の延長線辺りに差し掛かった時、半兵衛は軍配を下から水平に持ち上げた。


 火縄隊後方の兵と弓隊前方の兵が動いた。同時に火縄隊の各列間から長槍が持ち上がる。


 長槍はそのまま馬防柵に固定され自軍前方に大きな槍衾が形成された。


 槍衾とは槍を敷き詰め衾のような形にする戦法であり、特に騎馬隊には絶大な威力を誇る。


 火縄隊は前方から向きを変え、側面の曹軍両翼に銃口を向けた。弓隊も三方に向けての布陣をし、どこからの攻撃にもすぐ反応できる状態となった。


 これにより張遼の騎馬隊の動きが止まった。織田軍に突撃するには槍衾をかいくぐらねばならず、かといって近寄ったならば弓隊の斉射をくらう羽目になる。


 また両翼の夏侯淵と楽進も動けずにいた。張遼の牽制があってこその包囲の構えである。


 ここから歩兵隊までを包囲し、その輪を狭めて斉射するはずが、火縄の射程圏に完全に入ることになるため、騎射用の短弓の射程内には近づけない。


 弓を捨て騎馬隊として攻撃するにも、大きく迂回して織田軍の後方に回り込むしか術がなく、その隙に布陣を変えられるのは目に見えている。


 これには信長も舌を巻いた。陣形の弱点を克服し、さらに固定方式の槍衾という新兵器と呼べるものまで考案してあったのだ。


 戦場は半兵衛の思惑通り、膠着状態となった。


「見事なり」


 曹操が唸った。郭嘉も織田軍の陣形を崩すべく模索しているのか、独りぶつぶつと呟き、眉間に皺を寄せていた。


「郭嘉、あれを崩すには力押しで攻めまくるのが上策と見るが」


「はい。ただし被害を考えるととても賛成はできません」


「うむ……」


「ここでの我らの甚大な被害は袁紹にとってかなりの好機。連携して劉備も動くのは至極当然の戦略。優劣に関わらず停戦するのも案かと」


 曹操とて気づいている。意地を張っていては大局を逃すことになるし、曹操自身、信長とその軍勢のことは高く評価している。

四面楚歌の現状、味方に引き込んだほうがはるかに有益なのだ。


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