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第1章 邂逅13

 信忠は少し間を取り、戟を連続で突き出した。いかに猛将夏侯惇といえど全ては捌ききれず、わずかながら袖や身をかすめる。


「ほう!なかなかやる……だが」


 夏侯惇も槍を素早く突き出した。その技は信忠の技よりも早く正確であった。


 当然信忠も捌ききることができず、防戦一方徐々に後退していった。


「はあっ!」


 夏侯惇の突きが信忠の防御をかいくぐった。槍の穂先が信忠の左胸目指し突き進む。


 二人の動きが止まる。槍の先端が信忠の甲冑に突き刺さる。


「戟も馬術もまだまだ甘い。鍛えるがよい。この戦で生き延びたならまた相手してやろう」


 夏侯惇は槍を抜き、振り返りながらそう告げると、馬に跨り曹操の所へと戻っていった。


「城へ戻り養生せよ」


 曹操の言葉に夏侯惇は頭を下げて立ち去った。


「弥助殿!」


 半兵衛の声に弥助が俊敏に動き、信忠の下へ駆け寄った。


 信忠はただただうなだれるばかり。力の差を痛感したのだろう、その瞳には涙が溜まっていた。


 胸は甲冑を貫いただけで大きな怪我はないようだ。


 信忠を引っ張るように信長の下に連れ戻すと、信長は冷酷な顔で信忠を怒鳴った。


「痴れ者め!下がり義母の護衛をしておれ」


 信忠は何も言えずにその場を立ち去り濃姫の下へとぼとぼと向かった。


 濃姫は武装してわずかな兵と本営を守っていた。そこへ信忠がしょんぼりと肩を落としてやってくるのが見えた。


「信忠殿?」


「義母殿。父上に叱られこちらに戻って参りました」


 信忠の目は潤んでいた。


「どうしました?こちらでゆるりと話を聞かせてくだされ。あら?怪我もしておりますな、手当てしましょう」


 信忠は泣きながら濃姫に事の次第を話しだした


「なるほど」


濃姫はにこりと笑って言葉を続けた。


「信忠殿。あなたは織田家の嫡男、跡取りです。大将たるものみだりに一騎打ちなどに挑んではならぬ……と信長殿は仰ってるのですよ」


 柔らかく諭される。


「殿にもしものことがあった場合はあなたが織田家の頭領。なんとしてでも生き延びねばなりません」


 父と母の想いにふれ、信忠はただただ泣きじゃくった。そしてその想いを二度と無駄にすまいと強く心に誓った。




 その頃、ようやく戦場に動きが見え始めた。


 夏侯淵と楽進の部隊は鶴の両翼を広げ、織田軍を包み込もうとしていた。


 もちろん火縄を考慮して、間合いはかなり取ってある。弓が届くか届かないかの距離を保っている。


 中央の張遼隊もやや前進し、両翼と織田軍の動きを見据える。



「さて織田信長、どう動く?」


 曹操は真剣な眼差しで遠くの信長に問いかけた。



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