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第1章 邂逅11

 夜が明けた。


 初秋とはいえ、霧雨の降る肌寒い朝。


 信長は兵とともに陣を払い平野に進んだ。

半兵衛の指示に従い隊列を組む。



「ほう。火縄を最前に置く魚鱗ぎょりん陣を敷くか」


 信長が感嘆した。文字通り魚の鱗のような三角形の陣である。


 「火縄隊は三十は私が指揮を。すぐ後ろには可成殿と信忠殿が弓隊を。後方歩兵足軽は右翼に蘭丸殿、左翼に貞勝殿。中央に殿を配します」



 信長は半兵衛の説明に頷きながらも疑問をぶつけた。


「堅い陣形だな。だが火縄隊が死地とならぬか?装填も難しいし弾にも限りがあろう。」


 この時代である。火縄は戦を一変する強力な武器だが、弾丸製造の技術がない以上無駄に使えない。


「はい。火縄は最初の一発または威嚇のみ。足下に長槍を配しておきました」


 半兵衛の説明が続く。


「火縄隊は長槍隊に、そして足軽の左右両翼が前方に上がり、鶴翼かくよく陣へと変化します」


 さすがは戦術の天才である。最初の陣形の弱点を見事補って、陣組みしている。


 火縄隊は馬防柵で守られているとはいえ、装填に時間がかかることから、発砲後は無力となる。


 しかし火縄を破棄し長槍を装備することで騎馬の足を止めることができるし、後方の弓隊で牽制もできる仕組みだ。


 その間に最後列の歩兵が上がり鶴が羽を広げた型の陣形へと変化し長槍隊に迫った敵兵を包囲殲滅する。


 戦闘中の陣形変更は難しい。だが訓練された信長の兵ならば不可能ではないだろう。


 「ふふ……お主が味方で良かったと心底思うぞ」


 信長は嘆息を漏らし、半兵衛の戦術を褒め称えた。



 そしていよいよ曹操が軍を率いてやってきた。


 その曹操も信長軍の陣形を見て驚愕した。

昨日の使者を、そして夏侯惇の目を撃ち抜いた武器がたくさん並んであるのだ。


「こちらが兵数こそ多いですが……厳しい合戦になりそうですな」


 郭嘉は緊張した面持ちで呟いた。


「どう対抗するか……」


 曹操は思案した。楽進は昨日のこともあり、先陣を希望して鼻息を荒げている。


「古来より魚鱗には鶴翼と相場が決まっております。左翼弓騎馬隊に夏侯淵殿、右翼弓騎馬隊に楽進殿」


 郭嘉の頭脳が閃き、曹操方の陣形を組み立てる。彼の戦術は三国志でも指折りである。


「楽進隊は矢に油の入った袋を、夏侯淵隊は火矢を。殿と許褚殿は中央にて挑発を。また中央には張遼殿も騎馬隊で待機」


 楽進隊の油矢に夏侯淵隊の火矢。火計である。


「おいおい、殲滅するつもりか?」


 郭嘉の戦術に曹操も戦慄を感じる。


「そのくらいの覚悟で当たらないとこちらが痛い目に遭いますぞ」


 郭嘉の真剣な眼差しに曹操はこれ以上言葉がでない。


 陣形が整ったと報告が入る。ひりついた空気が曹操軍と信長軍の間に広がる。

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