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第1章 邂逅9

 郭嘉も満足そうに頷いた。相変わらずの仏頂面だが、少し笑みが見えたような気がする。


「そうです。合戦で優位に立つための手段として偽書の計を打ちます。それで使者なのですが……」


 郭嘉はそう言うと、ずらりと居並ぶ諸将の顔を見回し出した。その視線が一点に留まる。


「楽進殿、お願いできますか?」


 真剣な顔で楽進に使者を頼んだ。失敗すれば命を失うかも知れない任務である。


 それでも楽進は「承知」と受諾した。


 使者。それも信長にわざと捕まるための使者である。


 それなりの地位や信頼を得ている人選が書状がいかに重要かを思わせ、戸惑いを生じさせる。


 能弁はいらない。剛毅な性格で口を閉ざしてくれさえすればよいのだ。それには楽進殿が最適と郭嘉は考えたようだ。


 やや時間をおいて郭嘉が書状を書き上げた。それを楽進に手渡す。


 楽進は書状を受け取り静かに陣を出ていった。



―信長の陣―


 信長と半兵衛は張遼来陣と明日の合戦のことを話し合っていた。


 二人の認識は、合戦とはいうものの小競り合い程度ではなかろうか、であった。


 張遼の来陣により時代がある程度特定できたのが大きい。少なくとも赤壁や荊州侵攻以前、いや官渡よりも前の可能性が高い。


 とすると曹操は今現在大きな合戦はできないくらい身動きが取れない状況のはずである。


 その上、火縄の攻撃力を目の当たりにしたのだ。むやみやたらに向かってこれないだろうと想定している。


 勿論、本格的な戦闘になる可能性もあるので軍備は怠れない。


 あとは頃合いを見計らって火縄を餌に曹操を丸め込み、信長方に少しでも有利な条件の同盟もしくは協定を結ぶ。というのが信長の策である。


 奇しくも信長と曹操、どちらも同盟を前提とし、優位に立つべく戦うという戦略を選んだのだ。


 そんな最中、突如兵達がざわめきだした。


 信長と半兵衛が何事かと幕舎から出ると、信忠が兵装の男を引きずりやってきた。


「信忠、なんの騒ぎか?」


「部下が怪しげな男を発見し捕らえました。おそらく密使かと」


 信長は目線を引きずられた男に向けた。


「ほう、見事な面構えよ。恐れてもおらぬ。信忠、縄を解き調べよ」


 信忠はすぐさま縄を解き立ち上がらせて、服の裾や襟や懐などを調べ始めた。男に反抗する素振りは全く見えない。むしろ堂々としている感すらある。


(ん?)


 おとなしく取り調べを受ける男に半兵衛はなんとなく違和感を感じた。


(よほど肝が座っているのか?それとも曹操の策略か?)


 半兵衛は少しの挙動も見逃さず、魂胆を見極めようとしている。


「書状を見つけました!」


「うむ。信忠読み上げよ」


 信忠は書状を開き読み始めた。



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