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第1章 邂逅8

(降伏勧告か?)


 曹操は押し黙り、考え続けていた。


(あの好戦的な態度で降伏など、とても受け入れるまい。ならば……)


 曹操の意向を汲み取ったのか、郭嘉が発言した。


「降伏勧告……ではなく同盟の申し入れという形はいかがでしょうか。夏侯惇殿には非常に申し訳ないのですが」


 郭嘉らしく淡々と言い放つ。当然ながら武官からは不満の声があがる。


「………うむ。儂も考えてはいた。」


 これが曹操という男である。激しく怒っていてもその頭脳はあくまでも冷静に、大局をしっかり分析している。


 その頭脳が信長軍を蹴散らすよりも取り込むのが良いのではないかと判断したのだ。


「それでは元譲があまりに不憫ではあるまいか。一矢報いねば気がすまぬ。」


 夏侯惇の従弟である夏侯淵が怒声をあげる。曹洪も頷いて随従した。


 余談であるが夏侯惇、夏侯淵、曹仁そうじん、曹洪。血筋を遡れば皆同族である。


「それもまた道理であるな」


 曹操の言葉に皆呆気にとられた。


「明朝信長と合戦じゃ。郭嘉、布陣は任せる。それから最短距離で李典に使者を送れ。使者も文面も任せるぞ」


 郭嘉の頭脳がめまぐるしく働く。


(同盟、合戦、最短距離での使者。これらから導き出されるものは……)


「承知致しました」


 郭嘉はその類まれなる知能で曹操の考えを理解した。他の者はまだあっけらかんとしている。


「明日は早い。寝るぞ」


 曹操はそう言いながら席を立ち寝所へ向かった。


「郭嘉殿、どういうことであろうか?」


 たまりかねた楽進がくしんが尋ねた。他の武官たちも何が何やらわからず、郭嘉の話を聞こうと集まってくる。


「まず、信長軍との同盟。これが最終的な目的……つまり戦略ですな。戦略をこちらに都合よく成すためには合戦で優位に立たねばならぬ」


 郭嘉が仏頂面に似合わぬ丁寧な説明をし始めた。いつも何かしらを考えているためか、愛想がない。


「なるほど。しかし李典殿へ最短距離で……というのがまだわかりませぬ。」


 郭嘉は楽進の疑問に逆に質問返した。


「楽進殿。ここから李典殿の陣へはどう行くのが早いですかな?」


「街道を南下するのが一番早いですな」


「そうです。街道を下るが最短距離です」


「しかし、街道沿いには信長が陣を敷いておる。使者の通行は危険ではあるまいか?」


 郭嘉は意を得たりといった表情を浮かべる。

「そこですよ、楽進殿」


「ん?使者が……あっ!」


 楽進が気づいた。夏侯淵も曹洪も頷いている。


「なるほど。偽書か……」


 楽進が呟いた。



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