雷が地を切り裂くような轟音が平原に響き渡る。それと同時に使者が曹操に寄りかかるように崩れ落ちた。
(なんだ!何が起こった?妖術か!? )
曹操も配下の武将も息を呑み、まるで時間が止まったかのように動きが止まる。
許褚が本能からか咄嗟に曹操の前に立ちふさがる。
ほど近い所から呻き声が聞こえる。しかし寄りかかる使者からは生命力が感じられない。
曹操は使者の後方を振り向いた。
「
呻き声の主は夏侯惇であった。火縄の鉛弾が使者を貫通し、後ろにいた夏侯惇の左目を襲い潰した。
憤怒の形相浮かべ、まるで血の涙を流しているようにも見える。
「元譲を城へ運べ!」
曹操の指示に張遼が動く。素早く夏侯惇を抱え後方へと連れ去った。
「いかがかな?曹操殿。」
小気味良いといった表情を見せ、あえて挑発しているかのようである。
曹操は冷静を装い、感情は表に出さないよう努めた。近臣中の近臣がわけのわからない攻撃で負傷したのだ。それも生死に関わるやも知れぬ重傷。心中は穏やかであるはずがない。
「おもしろい攻撃をする。よかろう……明朝改めてお手合わせ願おう」
それでも極めて冷静に、何事もなかったかのように言い放った。
(さすがは曹操よ)
信長は感心した。だがまだ信長の手の内である。曹操は信長の術中に見事はまっていた。
信長は内心ほくそ笑み、
「了承した。明朝鉾を交えるとしよう」
と返答し、曹操に一礼すると陣中に下がっていった。
―曹操陣営・幕舎―
幕舎に戻った曹操は怒りを露わにしていた。織田信長という倭人にいいようにあしらわれたのが腹立たしい。無論股肱の夏侯惇が負傷させられたこともである。
「郭嘉、李典に使者を送れ!信長軍を後方から突き崩せとな!」
「しかし、殿……」
郭嘉の言わんとしていることはわかる。曹操の現状は四面楚歌で本来信長を相手にしている場合ではないのだ。
北には最大の領土と兵力を抱える
南の
共に酒を酌み交わし、英雄とまで評した劉備が遂に牙を剥いた。
そのような危機的とも言える状況で、突如現れた信長の軍は獅子身中の虫のようなもの、奇怪な武装もしているし放っておくわけにはいかない。
信長を攻撃するならば迅速に被害をなるべく被ることなく……それが条件となる。
信長という人物、得体の知れない攻撃。郭嘉が考えるに、とても条件を満たせるとは思えない。曹操もそれは否定はできない。