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第1章 邂逅6

 張遼帰陣。物見の報告が曹操に届いた。曹操はすぐさま張遼を呼び寄せ、


「どうであった?」


と、問いかけた。まるで玩具を目にした子供のような顔つきであった。


「は。陣内は活気あり、武装は細身の剣と薙刀よりも長い槍に弓。鎧や兜も含め漢のものではございませんな」


 曹操は黙って聞き入っている。


「大将はその威厳や威圧感、雰囲気など殿と間違えるかのような方。話し合いに応諾いただきましたが、油断は禁物かと」


 曹操は身を乗り出した。



「お前がそのように言うとはよほどの人物か……面白い。張遼よ、ご苦労であった」


 早く見てみたい、話してみたい。張遼の報告は曹操の好奇心を散々にかきむしった。



 信長軍が目視できる距離まで曹操の一団が到着した。


「いよいよですな」


 半兵衛が信長に話しかける。ここまでは信長の思惑通り。そしてここからが肝である。


「心地よい緊張感よ」


 信長が武者震いしているように見えた。圧倒的強者と対峙するこの久々の感覚は、桶狭間おけはざま以来のものを感じていた。


 信長は桶狭間の戦いから奇襲や奇策が得意だと思われがちである。


 しかし桶狭間の他にはそれほど危うい賭をしなければならない合戦は少なく、堅実な戦略で天下布武を実現してきたのだ。


 騎乗した数人の武士が信長の陣に近づいてきた。


「曹公の到着である」



 許褚もの凄い音声で叫んだ。図体だけでなく声までが破格である。


 信長も柵の最前まで半兵衛を従え出た。


「織田信長である」


 そう叫ぶと、曹操とおぼしき人物を見据えた。当然曹操も信長を品定めしているかのようにじっと見定めている。


 ここに日ノ本の戦国の覇王信長と三国志のの覇王曹操が邂逅した。


 暫しの沈黙。


 両陣営の将兵は固唾を飲んだ。


 姿形は違えど、纏っている雰囲気は似ている。どちらの陣営の将兵も同じことをおもつていた。


 静寂を破ったのは曹操だった。


「織田信長。何処より参ったか?」



である」


 信長は短く答えた。


「何をしに参ったか?」


 信長は天を指差し答えた。


「天下布武」


「ほぅ……天下に武を布くと?」


 曹操は鋭い眼光で一瞬向けたが、すぐ元に戻しにやりと笑って問いかけた。


「国も城もなく、しかもそれしきの兵力でか?」


「試してみるか?」


 信長も不敵に笑い火縄銃を構えた。


「何をしておる?弓?いや、違うな。」


 曹操とて見聞きしたことのないものは解りようがない。そもそもこの時代にはない代物である。


「曹操様!」


 不意に曹操の元に使者が訪れた。火急の用なのだろう使者の顔には余裕がない。


劉備りゅうびが……」


 使者が曹操に話しかけた刹那の出来事であった。



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