「お主は儂の傍におれ。それだけで効果がある。はっはっは」
「カシコマリマシタ。ウエサマ」
信長は大いに笑った。弥助はたどたどしい言葉で任務を受ける。
弥助は日本人ではない。宣教師より奴隷として日本に連れられたのだ。
肌は褐色と言うよりも黒色で髪は大仏のようにくるくると丸まっている。
信長は弥助をいたく気に入り小姓として傍に置いていた。その弥助の姿は古代中国でも珍しい存在なはずである。
そして斥候兵の報告が聞こえた。
「曹軍見えました!」
信長は腰を上げ、弥助を引き連れ中陣中央へ歩きだした。
―
「物見は戻ったか?」
見慣れぬ軍勢が突如現れたことが気になり落ち着きなく動き回っている。
「そう急くな」
曹操がその仕草を笑いながらたしなめる。
しかし好奇心からか目は爛々と輝いて見えた。
『異民族風の軍勢現る』の報に興味を抱き配下の将兵を引き連れてきたのだった。
「攻撃してくるかも知れぬぞ」
たしなめられても落ち着く様子がない。
曹操は苦笑し、
「こ奴らを見よ。泰然自若としておるわ」
と、すぐ後方に控える
「ちっ…」
曹操に揶揄われたことに舌打ちをし、ようやく腰を掛けた。すると同時に物見の報告を持ってきた
勢いよく立ち上がり、声を出そうとした夏侯惇を曹操が制し、報告を促す。
「どうだ?」
「兵数は二千ほど。やけに長い槍と重厚そうな鎧を武装しています。漢のものではございませんな」
「ふむ。しかし異民族の軍勢が突如中原に現れたのは不思議である。敵意はありそうか?」
「陣を組み、武装している以上全くないとは言い切れませんな。しかし民や村にはなんら手を出してはおりませぬ」
曹操と郭嘉のやりとりを諸将は固唾を飲み憂い顔で聞いていた。曹操はしばしの沈黙のあとぽつりと呟いた。
「見てみたい」
(やはり……)
将達の予想が的中したようで、ため息が聞こえる。
曹操はそれに笑いを堪えつつ指示を出す。
「よし。夏侯惇、
「
興味津々で異民族風の部隊を見に行くだけでも危険を伴うかも知れないのだ。
何が起こるかわからないのだから安易に行動せず、配下に討伐なり交渉なり命じてくれた方が夏侯惇らからすれば気が楽なのだ。
「いざとなったら惇よ、守ってくれよ」
曹操はにやにやしながら言い、座を立った。