「とりあえず、警戒は怠らぬようこまめに城を偵察してみましょうか。では殿を呼んでまいります」
そう結論づけ、幕舎へと歩きだした。
「殿」
「半兵衛、入れ」
信長は濃に甲冑を身につけてさせていた。半兵衛は跪くと、
「近隣に城はあるようですが地名等一切不明でございます。また皆が殿とお会いしたいと」
と、報告した。
「うむ。では参ろうか」
信長が幕舎を出る。半兵衛が後ろをついていく。遠目に信長の姿を見た兵たちが喝采し始めた。
信忠、可成、蘭丸、貞勝、弥助が近寄り跪く。信長は優しい目で見つめ一人一人に声をかけた。
信忠と蘭丸は再び泣きだす始末。
将を従え再び歩きだした信長が兵たちの前にたどり着くと喝采がぴたりと止まった。
「皆、大義である」
信長が話しだした。
「我らは再び生を受けた。この先何があるか全くわからぬ。それでも儂についてきてくれるか?」
「おぅ!!」
兵たちが口々に威勢の良い返答をする。信長は満足げに兵を見渡し宣言した。
「では、これより織田軍、大陸に天下布武いたす!」
再び兵が喝采しだす。ただ一人半兵衛だけは細い目をさらに細め渋い顔していた。そして、
「しかし……」
と語り出した。
信長は半兵衛を手で制し、
「機が参る」
とだけ言い放った。
半兵衛はその一言で悟った。
(なるほど。さすがは信長公よ)
感心するとともに背筋に寒気を感じる。半兵衛と信長は互いに頷きあった。
そして半刻ほど経った。斥候が慌ただしく駈け戻ってくる。
信長は閉じていた目をかっと見開き、静かに立ち上がると、
「機が参った」
と、呟いた。続いて半兵衛も立ち上がる。
「さて。鬼がでるか蛇がでるか」
と、にやりとと笑う。
斥候兵が信長の幕舎まで連れられてきた。そして信長の前に跪く。
「報告します。城より一軍出撃しました。兵数およそ五千」
将達がざわめく。
「して?」
信長が次を促し、座はまた静まる。
「はっ。軍勢の旗印に『曹』《そう》と」
先ほどとは比べられないぐらいざわついた。
「半兵衛……鬼よりも蛇よりも上ぞ」
信長は心なしか喜んでいるようにみえる。
「ふふ。殿はどれだけの運をお持ちなのか」
半兵衛もほくそ笑む。各将は跪きながら指示を待っていた。
「この戦……撃って出るは愚よ。これ一つで策を成す」
信長は後ろ手に火縄銃を掴んで皆の前に掲げた。
「半兵衛、指揮は任せたぞ。」
「はっ。では、可成殿と蘭丸殿は長槍隊にて前方に。信忠殿と貞勝殿は弓隊にて中陣左右に」
半兵衛は水が流れるようにさらさらと指示を与えた。
各将は指示のもと、即行動を開始する。この迅速さも織田軍の強さの一因であった。
それを信長が頼もしげに見ている。
「弥助」
信長が指示を与えられていない弥助に声を掛けた。