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序章 本能寺の変2

「惟任殿は兵を二手に分けました。本隊一万は本能寺へ、秀満隊三千がこちらへ。本能寺へ向かうには秀満を抜かねばなりませぬ」


「わかった。なんとしても父上を救うぞ!参るぞ!」


 信忠は家督を譲られ現織田家当主である。


 信長と比較されるせいか、どちらかと言えば世間から低い評価をされがちであった。


 しかし、貞勝はそうは思わなかった。まだ若く血気盛んなところもあるが信長と違ったところで大器であると感じている。


 光秀もそう思うから生かしておいては障壁となる、と兵を向けたのであろう。


 信忠は馬に跨り、


「なんとしても大殿を助ける!敵の首はいらぬ!皆に恩賞を与えよう!いざ!」


と兵を鼓舞しつつ、出陣した。



「殿!敵襲でございます!」


  秀満隊の斥候が声を張り上げる。


「敵襲!?もしや……信忠様か?」


「はっ!」


 隠密裏に事を進めているはずであった。


(まさか?読まれていたのか?)


 秀満は動揺した。まさか裏切り者がいるのかと疑心も首をもたげてくる。


「状況は!?」


「信忠軍約五百、突撃して参りました!」


(殿は平気か?いや、今はまず信忠様を……)


 秀満は疑心を振り払い前線へ赴いた。


 信忠軍はすでに先陣に突撃している。


「裏切り者共め!退けぃ!」


 信忠の一喝に明智兵が怯む。そして槍で明智兵を払いつつ進んでいた。


「織田信忠殿とお見受け致す!我は明智光忠!いざっ!」


「光忠ぁ!」


 名乗りを上げた光忠に信忠が迫る。


 甲高い金属音が響く。


 光忠が信忠の槍を受け止めたかに見えた。が、勢いは止まらず、光忠の槍は弾かれ、そのまま肩を突かれた。


「くっ……!」


「光忠!謀叛の罪は重いぞ。死ね!」


 信忠が再び光忠に迫る。


 寸前であった。


 秀満の放った矢が暗闇を切り裂き信忠の馬に突き刺さった。馬は驚き立ち上がり、そのまま信忠を振り落とす。


「光忠殿、下がられぃ!」


 秀満が叫ぶと明智兵が光忠の前に立ちはだかった。


 信忠はすぐさま立ち上がり、声のした方を見定めると秀満を睨みつけた。


 「秀満!なぜ裏切った!?」


 秀満は苦渋の表情を浮かべるだけで何も言わず、信忠を討てと兵に命じた。


「うおぉぉぉ!」


 一閃。


 若獅子が吼える。


 明智兵が血飛沫をあげばたばたと倒れていく。


 ふいに貞勝が馬を引き近づいてきた。


「信忠様、味方の兵はだいぶやられました。形勢不利にて最早ここを抜くのは無理でございます。一旦退き二条の兵を回収し、別の道から本能寺へ向かいましょう。」


「くそっ……!致し方ない、退くぞ!」


 信忠は馬に跨った。そこを再び暗闇の矢が襲い来る。


「信忠様!くっ……」


 矢を放ったのはやはり秀満。


 貞勝がとっさに自身の馬を信忠の馬にぶつけた。信忠はそれにより無事であったが矢は貞勝の腿に刺さっていた。

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