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覇王
覇王
歴史・時代三国
2025年02月01日
公開日
15.1万字
連載中
本能寺の変にて命を落としたはずの覇王・織田信長。
彼が目覚めた先ははるか遠い時代の異国・後漢末であった。
そこで信長はもう一人の覇王と邂逅する。

超長編歴史ファンタジー開幕。


この作品はエブリスタにて公開されている覇王の加筆修正版となっております。
またNolaノベルにも投稿しております。

序章 本能寺の変

―天正十年六月二日未明―



 夜半より降り始めた雨が次第に強さを増していた。


 その雨の中、丹波たんばから京へと向かう一軍があった。


 先頭を駆けるのは白銀の甲冑を身に纏う初老の男。上品さと知的さを併せ持ち、それでいて歴戦の古強者を感じさせる。後に続く軍勢も統制がとれ、士気も高い。


 ふと先頭の男がやや小高い丘に馬を寄せ立ち止まった。配下の武将達が続々と丘のもとへ詰め寄せ指示を待つ。


 男は天を見上げ、目を閉じた。辺りは静まり返る。


( 私は……私は間違えてはいない。ここで信長公を討たねば、日ノ本が破壊され尽くしてしまう)


 様々な想いが蘇る。家中随一と言われる知識を携え頭角を現し、その功績から今や家中に並ぶ者なく、主からの信頼も篤い。


(……しかし)


 やや優柔不断な面もある。


「……殿」


 家臣の斎藤利三さいとうとしみつが声を掛けた。


「うむ……」


 明智光秀あけちみつひでは一呼吸おき、目を見開いた。


「我らは……我らはこれより、洛中へ進路をとる!……狙うは覇王の首!信長の首である!敵は本能寺にあり!」


 一瞬の沈黙の後、大きな喚声が上がった。さすがの光秀にもこの暴挙とも言える謀叛に不安はあった。だが離反する者はない。続けざまに光秀は言い放った。


秀満ひでみつ光忠みつただはこれより別働隊となり、妙覚寺の信忠のぶただを襲撃せよ!利三は本隊先陣を率い、本能寺を包囲せよ!」


「はっ!」


「はっ!」


 秀満は指示を受け、光忠を先陣に妙覚寺方面へと兵を動かした。


「殿、御武運を。利三殿、殿を頼む」


「お任せを」


 本来秀満は謀叛には反対であった。だが義父光秀の心中を察し、運命を共にすることを決めたのだ。秀満は光秀に一礼し去って行った。


「殿、我らも」


 利三に促され、光秀も本能寺へ向け兵を動かした。利三も一礼し先陣へと向かって行く。


(良いのだ、これで良いのだ……)


 光秀は自分に言い聞かせるように呟いた。



―妙覚寺―


「信忠様、信忠様」


 村井貞勝むらいさだかつが信忠を呼び起こす。


「貞勝か」


「はっ、兵の準備整いました」


「やはりか……」


 信忠が呟いた。どうも先日から胸騒ぎが止まらず、京に入りそれは更に強まった。そこで貞勝に命じ斥候をいつもより増やしていたのだ。


「誰か?」


信忠は貞勝に問いただした。


「……惟任日向これとうひゅうが


「光秀だと!おのれ!」


 惟任とは信長の命によって与えられた光秀の名であり、世間では明智よりも惟任で通っていた。


 信忠は起き上がり甲冑を身に付けながら貞勝に状況を尋ねた。

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