「やってられないわよおおおお!!!!」
「何か前もこんなことあったな!?」
今日は大学もバイトも休みなので俺の家で沙魔美とゴロゴロしていたのだが、突然沙魔美が奇声を上げて立ち上がった。
「急にどうしたんだ沙魔美、一緒に精神科行くか?」
「行かないわよ!! コンビニ行くみたいなノリで精神科を勧めないでよ! 私はね、不満なのよ!」
「……いったい何が不満なんだよ」
「言わなくてもわかるでしょ! 何だったのよ前回までの茶番は!? 6話にもわたって長々と異星人達の痴話喧嘩に巻き込まれて、挙句美味しいところはカマセが全部持ってったじゃない! メインヒロインは私なのよ!? こんなの1ミリも納得いかないわ!!」
「まあそう言うなって。お前にも頑張ったご褒美に、監禁七ツ星レストラン春の監禁ファンタジスタバロンドール黒トリュフを添えてをご馳走してやったろ?」
ちなみに監禁七ツ星レストラン春の監禁ファンタジスタバロンドール黒トリュフを添えての詳細についてはとてもここで描写できる内容ではないため、割愛させていただく(ヘタレ)。
「あれくらいじゃまだまだ私の不満は解消されないわ!」
「……じゃあ、どうすりゃいいんだよ? 言っとくけど、もう監禁はナシだからな」
「大丈夫。今日私がやろうとしてることは、監禁以外のことだから」
「え? 今から何かやるのか?」
「ええ。だから堕理雄は、黙って私のやることに付き合ってちょうだい」
「えぇ……それは内容によるな……」
「じゃあ監禁七ツ星レストラン春の監禁ファンタジスタバロンドール黒トリュフを添えてを、もう一周する?」
「沙魔美のやることに付き合います。付き合わせてください」
「よろしい。ではまず堕理雄も立ってちょうだい」
「へいへい」
やれやれ。
何だかこのノリも久々だな。
「それではいきます。『トリカブト病野の、カンタン腐魔女クッキングー!』」
「何か始まった!?」
そして既に嫌な予感しかしない!
「みなさんどうもこんにちは。ストリキニーネ料理学校で講師を務めております、トリカブト病野と申します」
「即興コントが始まった! 初期の頃によくあった展開だ! てか料理番組なのに名前が毒物ばっかなのはヤバすぎるだろ!? 誰もそんな料理学校行かねーよ!」
「こちらはアシスタントの、エチルパラニトロフェニルチオノベンゼンホスホネイト普津沢君です」
「俺の名前エグいな!? エチルパラニトロフェニルチオノベンゼンホスホネイトって、殺虫剤とかに使われてる毒物だっけ!?」
「略してエチ沢君です」
「最悪な名前になった! ただのエッチな人みたいになっちゃったじゃん!」
「それでは今日の料理を作っていきたいと思います」
「俺の話は無視ですかトリカブト先生!?」
……ハァ。
もうしょうがないから付き合ってやるか……。
どうせこれ、俺がノるまで延々と繰り返すつもりなんだろ?
「……今日はどんな料理を作っていただけるんですかトリカブト先生」
「もう! エチ沢君はホシガリさんですね! まあいいでしょう。今日の料理はこれ! 『ケンカップル』です!」
「ケンカップル!?」
嫌な予感が的中した!
だから『腐魔女クッキング』だったのか……!?
「まず天才型だけど自己チューな攻め様を用意します」
「え!?」
トリカブト先生が指をフイッと振ると、高身長でイケメンだが、目付きが悪い制服を着崩した高校生が出現した。
「だ、誰だ君は!? 勝手に人の家に入ってこないでくれるかな!?」
「ウルセーな、黙ってろ。俺は今腹が減っている。お前ちょっとハンバーグを作って俺に食わせろ」
「俺は一応年上だよ!?」
この子が天才型かどうかは何とも言えないけど、自己チューなことは確かだな!
「そして正義感が強い、委員長タイプの受けちゃんも用意します」
「トリカブト先生!?」
トリカブト先生が指をフイッと振ると、こちらも高身長でイケメンだが、対照的に品行方正そうなメガネをかけた高校生が出現した。
「また増えた!」
「すいません。うちのやつが失礼なことを言ったようで」
「え、いや……別に君が謝ることじゃないよ」
うちのやつ?
「オイ! まったくお前は何度言えばわかるんだ! お前の愚行はルームメイトである僕の評価にも響くと、口を酸っぱくしていつも言っているだろうが!」
あ、二人はルームメイトなんだね?
全寮制の学校なのかな?
「アァン、ウッセーな! そんなにセンコー共の評価が気になんのかよ!」
「ああ気になるね。僕の夢は、あの学校で生徒会長になることだ。その夢のためには、如何なる危険因子も取り除いておかねばならない」
「ハッ! んな御大層なことほざいてる割には、一度も俺に期末テストの学年順位で勝ったことのねえ、万年二位野郎じゃねーか」
「くっ! うるさい! 次の期末テストこそは、絶対お前に勝ってみせる!」
「ハッ、無理無理」
攻め様天才型だった!
こいつ家で勉強しなくても、余裕で100点取っちゃうタイプのやつだ!
「……そういうことを言っていると、もう僕はハンバーグを作ってやらないからな」
!?
「オ、オイ! そんな酷いこと言うなよ……。俺今、腹減って死にそうなんだよ。茶化したことは謝るから、頼むからハンバーグ作ってくれよ……」
「フン、お前は天才なんだから、自分で作ったほうが美味しいハンバーグが作れるだろ」
「そんなことはねーよ! 俺、お前が作ったハンバーグが、世界で一番美味いと思ってる!」
「っ!! そ、そんな……そんなお世辞には騙されないぞ……」
「お世辞じゃねーって! あーもうメンドクセー! さっさと俺らの家に帰ろうぜ。で、お前は俺にハンバーグを作る。はい決定」
そう言うと攻め様は受けちゃんの腕を掴んで、無理矢理玄関に引っ張っていった。
「コラッ! 腕を引っ張るな! 制服が伸びるだろ!」
そう言いつつも受けちゃんは、満更でもなさそうな顔をしている。
そして二人は寄り添うように玄関から消えていった。
「エンダアアアアアアアアアアアアアアアイヤァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「うるさいですよトリカブト先生! 近所迷惑も考えてください!」
「ハー無理。マジ無理しんどい。尊みがしんどい。しんどーだびっどそん」
「しんどーだびっどそん!?」
トリカブト先生は両手で口元を抑える、いつものポーズで恍惚とした表情を浮かべている。
「まあ尺の都合でケンカップルの割には喧嘩シーンが少なかったのは、今回の反省点ね」
「もっと他にも反省点は腐る程あったと思うんですけど」
腐魔女だけに。
「では次の料理ですが」
「この番組俺必要ですかね!? トリカブト先生だけでよくないですか!?」
「次は『ヤンデレップル』です!」
「ヤンデレップル!?」
ヤンデレなカップルの略?
ヤンデレはトリカブト先生だけで十分なんですが……。
「まず束縛が強い攻め様を用意します」
「はあ……」
トリカブト先生が指をフイッと振ると、高身長でイケメンだが、目の下に大きなクマがある高校生が出現した。
「えーと……君は?」
「オイ! お前か! こないだオレのモンにちょっかいかけてきやがったやつは!?」
「え? え? え?」
「そしてそんな攻め様を、極端に甘やかしている受けちゃんも用意します」
「トリカブト先生ッ!!」
トリカブト先生が指をフイッと振ると、またもや高身長でイケメンだが、いかにも裏がありそうな笑顔を振り撒く高校生が出現した。
とりあえずトリカブト先生は、攻めも受けも高身長のイケメンじゃないと萌えないらしい。
「こんなとこにいたのか。君の好きなオムライスを作ったから、寮に帰って一緒に食べようよ」
また全寮制だ!
この世界には全寮制の高校しかないのか!?
あと、受けちゃんはいつも料理が得意なんだな。
「それはもちろん食うけどよ。こいつじゃないのか? こないだお前にちょっかいかけてきやがったのは!?」
攻め様は殺気をビンビンに放ちながら、俺のことを睨んだ。
こーわ!
「いや、この人は違うよ。それにあれは、ちょっと道を聞かれただけさ。僕が君以外の人と、仲良くするはずがないじゃないか」
「……フン、それならいいけどよ。わかってんだろうな? お前は一生俺だけの面倒を見るんだからな。他のやつの世話なんかしたら、俺は絶対に許さないからな!」
「フフフ、わかってるよ。僕が世話をするのは、世界で君だけさ。――あ、制服の袖口のところがほつれてる。僕が縫ってあげるから、ちょっとそれ脱いで」
「ああ」
受けちゃんに言われると、攻め様は何の躊躇いもなく、上着を脱いで受けちゃんに渡した。
「じゃあこれは後で縫っておくから、とりあえず今は帰ってオムライスを食べようか」
「オウ。オムライスにケチャップで、『私はあなただけの世話係です』って書けよ」
「フフフ、わかったよ」
二人は寄り添うように玄関から消えていった。
「エンダアアアアアアアアアアアアアアアイヤァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「さっきも聞きましたよそれ! 安易な天丼はやめてください!」
「ハー無理。マジ無理しんどい。尊い&しんどい。しんどいぺてるぶるく」
「しんどいぺてるぶるく!?」
トリカブト先生は両手で口元を抑えながら、頬を涙で濡らしている。
「でもできれば長編にして、あの二人が出会ってからああなるまでを、懇切丁寧に書き紡いでほしかったわね」
「俺はほしくないです」
それはもう別の小説になっちゃうし。
「続いての料理ですが」
「もう俺はお腹いっぱいですよトリカブト先生! いったい何品作るつもりなんですか!?」
「次は『力士ップル』です!」
「力士ップル!?」
トリカブト先生力士好きすぎじゃないですか!?
実はデブ専なのでは……?
「まず力士の攻め様を用意します」
「力士の攻め様!?」
トリカブト先生が指をフイッと振ると、高身長のイケメン力士が出現した。
「ごわす」
「あ、どうも……」
「そして力士の受けちゃんも用意します」
「力士の受けちゃん!?」
トリカブト先生が指をフイッと振ると、もう一人高身長のイケメン力士が出現した。
「ごわす」
「あ……どうも……」
「ごわすごわすごわすごわす」
「ごわすごわすごわすごわす」
二人は寄り添うように玄関から消えていった。
「エンゴワアアアアアアアアアアアアアアスヤァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「エンゴワスって何ですか!? ……トリカブト先生、正直に答えてください。今のは失敗したと思ったでしょ?」
「……まあ、ちょっとだけ想像してたのとは違うなとは思ったけど……。でもそれは次の料理で挽回します!」
「さっきから思ってましたけど、トリカブト先生料理はしてないですよね? ただ食材達のことを、ウットリしながら眺めてるだけですよね?」
「次は『危機一発な黒ひげップル』です!」
「危機一発な黒ひげップル!?」
既に地雷臭しかしない!
「まず短剣の攻め様を用意します」
「短剣の攻め様って何!?」
トリカブト先生が指をフイッと振ると、高身長のイケメン短剣が出現した。
いや、自分でも何言ってるかよくわかんないんだけど、とにかく高身長のイケメン短剣が現れたんだよ。
「どうも、高身長でイケメンな短剣です」
「短剣がしゃべった!? もう世界観メチャクチャだよ!」
「そして黒ひげの受けちゃんも用意します」
「まだしゃべる短剣が消化しきれてないんですけど!」
トリカブト先生が指をフイッと振ると、樽に入って頭だけを出している、高身長でイケメンの黒ひげが出現した。
「くっ、殺せ! 俺はどんな拷問を受けようとも、絶対に仲間を売ったりはしないぞ!」
「ひげのオッサンのくっころはマニアックすぎだろ!? もう展開読めたし!」
「フッフッフ、果たして僕にブスリと刺されても、同じ台詞が言えるかな?」
「なっ!? そ、そんな! それだけはやめてくれ! やめ……やめ…………アッー!」
二人は寄り添うように玄関から消えていった。
「…………どうしてこうなっちゃったのかしら」
「それは俺の台詞ですよ! なんでやる前に気付けなかったんですか!?」
「では気を取り直して最後にデザートを作ります」
「俺もう帰っていいですかね!?」
俺の家はここだけど。
「最後は趣向を変えて、NLのカップルを作ってみようと思います」
「え? 珍しいですね、トリカブト先生にしては」
「まず監禁マニアの腐魔女を用意します」
「は?」
そう言うとトリカブト先生は、親指で自分自身を指差した。
……ああ、そういうことね。
「そしてそんな監禁マニアの腐魔女にぞっこんなダーリンも用意します」
トリカブト先生は、今度は俺を指差した。
「別に俺はお前にぞっこんではないぞ」
「フフフフ、えい」
「え? うわっ!?」
監禁マニアの腐魔女に、ベッドに押し倒された。
そして監禁マニアの腐魔女は、俺の上に覆い被さってきた。
「……今夜は寝かさないわよ」
「いや、まだ昼の2時なんだけど……」
今から朝までする気なの?
そんなの俺、干上がっちゃうよ?(何が?)