目次
ブックマーク
応援する
5
コメント
シェア
通報

第71魔:残念だったわね

「紹介するわね菓乃子氏、この方が私の彼氏の、勇希先輩よ!」

「えっ!? 沙魔美氏、彼氏って……」

「沙魔美、ややこしい紹介の仕方をするな、菓乃子が困惑してるだろ」

「ハッハー! これはこれは、グレートバリアリーフに咲く、一輪の野薔薇の様な美しいレディじゃないか!」

「え? え? え?」


 始めてスパシーバに来店した玉塚さんが菓乃子を見るなり、にじり寄って菓乃子の手を握りしめた。

 グレートバリアリーフに薔薇は咲いてませんよ、玉塚さん。


「オイ男女! 菓乃子はウチの女やぞ! その汚い手を放せや!」

「そうですよ勇希先輩! 私というものがありながら、私の菓乃子氏にも手を出そうとするなんて、あんまりです!」

「ちょ、ちょっと二人共、誤解を招く言い方はやめて……」


 ドロドロしすぎじゃね!?

 いつの間に人物相関図の矢印が、こんなグチャグチャになったんだ!?

 いつからこの小説は、コミック百〇姫になったんだよ……。

 ちなみに今日のピッセの額の文字は『鰯』だ。

 どうやら特に何もない日は、デフォルト文字の『鰯』にしているらしい。

 デフォルトが『鰯』でいいのかよとは、いつも思うが。


「くっふうぅぅぅ!」


 ……。

 娘野君はそんな女達のドロドロ模様を見て、恍惚とした表情を浮かべている。

 君は本当に、何でも楽しめるんだな。


「……キモ」

「え!?」


 またしても真衣ちゃんが、娘野君のことをゴミを見るような眼で見て言った。


「君、またいつものヘブン状態になってたよ! マジでキモいから、いい加減にしてくれない!?」

「くはんぷっ!」

「くはんぷっ!?」


 今の真衣ちゃんの罵りイチゲキで、娘野君は達してしまったらしい。

 こんな人前で達するんじゃないよ……。

 しかもここまでの一連の遣り取りを、例によって未来延ちゃんがスマホのカメラで撮っている。

 今夜のSNSもバズるんだろうなあ。

 ちなみに流石と言うか、玉塚さんは一目で娘野君のことを男だと見抜いた。

 やはりこの人の女性に対する嗅覚は半端ない。

 玉塚半端ないって。


 それにしても、スパシーバも随分と賑やかになったもんだ(見事に身内しかいないが)。

 これで仮に多魔美とマヲちゃんも来たら、オールスター勢揃いだな。


 カランコロンカラーン


「あ、いらっしゃいま……」

「やっほーパパー! 呼んだー?」

「多魔美ー!!」

「アタチも一緒だよ」

「マヲちゃーん!!」


 オールスター揃ったよ!

 何なんだ今日は!?

 みんなで野球でもやるの!?


「むむっ!? マイライバル! この可憐なリトルレディは、今マイライバルのことを、『パパ』と呼ばなかったかい!?」

「あ、玉塚さん、これには、その……いろいろと事情がありまして」

「どういう事情なのか、説明願おうか!?」

「あっ、勇希おねえちゃんだ。この頃からイケメンだね」

「おや? リトルレディ、どこかでお会いしたことがあったかな?」


 そうか、多魔美は未来で玉塚さんとも既に会ってるのか。


「うん。しょっちゅうパパと、ママを取り合って対決してるよね」

「むむむっ!? ママというのは誰のことかな!? そういえばキミ、誰かに似てるね……」


 えぇ……。

 未来でも俺は玉塚さんと沙魔美を賭けて、そんなしょっちゅう対決してるの?

 てか玉塚さん、全然沙魔美のこと諦めてないじゃん。

 話が違うよ……。


「あ、そうだ。ねえねえリーダー」

「リーダー!?」


 多魔美が真衣ちゃんのことを、何故かリーダーと呼んだ。


「何ですかリーダーって!?」

「だって真衣叔母ちゃんは、『ちっこいズ』(※55話参照)のリーダーでしょ?」

「そうそう。リーダー役頑張ってね、アタチも応援してるよ」

「初耳ですよ!? 勝手に決めないでください! そもそも私は、そのちっこいズってのに加入した覚えはありませんよ!」

「えー、もう衣装も作っちゃたんだよ」


 多魔美がランドセルの中から、アイドルみたいなフリフリの衣装を取り出した(四次元ランドセル!?)。

 マジでちっこいズをアイドルユニットとして売り出そうとしているのか、俺の娘は……。


「ヤですよ私は! そんな恥ずかしい衣装、着れません!」

「まあまあ、じゃあこの話は一旦置いておくとして」

「一生置きっぱなしにしておいてください!」


 沙魔美は衣装をまた四次元ランドセルに仕舞った。


「ところでさ、そろそろ真理叔母ちゃんが産まれてる頃じゃない? リーダー」

「なっ!? なんでそれを!? ……いや、多魔美ちゃんなら知ってて当然ですか。しかし、多魔美ちゃんが真理のことを『真理叔母ちゃん』って呼ぶと、何か変な感じですね。確かに叔母なんですけど」


 真衣ちゃんの言う通りだ。

 多魔美からしたら叔母でも、今は多魔美の方が10歳くらい年上だ。

 まあ、「やれやれだぜ」が口癖のあの人も、12歳年下の叔父がいるし、それと似たようなものか(全然違う)。


「ねえねえ、私も真理叔母ちゃんのこと抱っこしたいよー。今から連れてきてー」

「ダ、ダメですよ! まだ外に連れ出せる時期じゃないんですから!」

「チェー」

「コラ多魔美、我儘言っちゃダメだろ」


 ここは父親として、言う時は言わないとな。


「ぷくうー」

「……ぷくうー顔してもダメだ」


 か、可愛い。

 娘のぷくうー顔可愛い!

 イヤ! でもダメだ!

 俺は父親として! 俺は父親としてええ!!


「オウ普津沢、ちょっと今いいか?」

「え? あ、はい。今行きます」


 厨房から伊田目さんに呼ばれた。

 何の用かな?

 今はオーダーも出てないし、こういう時に伊田目さんが俺のことを呼ぶのは珍しいな。

 俺は早歩きで厨房の中に入った。


「お待たせしました。何でしょうか?」

「……ちょっと一緒に裏庭に来てくれ」

「? はい」


 何だろう。

 伊田目さんの纏う空気が、少しだけピリッとしている様な気がする。

 何か良くないことでもあったのか?

 ……まあいいか。

 俺は心に一抹の不安を抱えながらも、伊田目さんに続いて裏庭に出た。


 伊田目さんは裏庭に出ると、シュナイダーの餌入れに今日の分の餌を入れた。

 シュナイダーはその餌を、あむあむと美味しそうに食べている。

 か、可愛い(鼻血)。


「……なあ、普津沢」

「は、はい!?」


 シュナイダーに見蕩れているところだったので、変な声が出てしまった。


「悪いけどよ、俺はちょっと用事ができたんで、今日はもう店閉めてくれるか?」

「え……用事ですか」


 まだ8時前なのに。

 それって、もしかして。


「……の方の用事ですか?」


 つまり、忍者のほうの……。


「ハハ、察しがいいな」


 伊田目さんは自嘲気味に笑った。


「……その通りだ。ついさっきイチから矢文が届いてな。ちょっと厄介なことが起きてるらしい」

「厄介なこと?」


 確かイチさんていうのは、伊田目さんの側近のくのいちさんの名前だよな?

 てか、今時矢文って……。

 しゃべり方といい、何かにつけて古風な人だな。


「ああ、実はな――」

「ちょ、ちょっと待ってください! それって所謂、国家機密ってやつですよね!? そんな大事なことを、一般人である俺なんかに教えちゃっていいんですか」

「構わねえさ。だってお前はもう、一般人じゃねーからな」

「は?」


 どゆこと?


「お前はボンバー爆間の一件で、俺達IGAイガの存在を知っちまっただろ? そういう人間が取れる選択肢は二つしかねーんだよ。一つは口封じのために、消されるか」

「!!」


 消される!?

 それってつまり……そういうことですか!?

 俺、危うくバイト先の雇い主から、二重の意味でクビにされるところだったの!?


「もう一つは、IGAの民間協力者になってもらうかだ」

「……民間協力者」


 バイトみたいなものかな?


「普津沢はどっちがいい?」

「え? ……えーっと」


 そんなの、選択肢あってないようなもんじゃない?


「で、でも伊田目さん、俺は伊田目さんも知っての通り、ただの人間ですから、とても忍者の仕事が務まるとは……」

「いやいや、別にお前に忍者になれとは言ってねーよ。言っただろ? あくまでさ。前線に出る必要はねえ」

「……はあ。じゃあ、具体的に俺は何をすればいいんですか?」

「そうだな。今回の件で言えば、事のあらましを聞いてもらって、普津沢なりの意見を聞かせてもらえればそれでいい。もちろん、バイト代は弾むぜ」

「え? そんなことでいいんですか?」


 それぐらいなら、別にいいですけど。


「でも、俺みたいな素人の意見なんて、役に立ちますかね?」

「大いに立つさ。それにこの件に関しては、お前は素人じゃねーぜ」

「? それってどういう……」

「今から30分くらい前に、駅前の商店街で窃盗事件があったらしいんだけどな、その犯人達が『自分達は、伝説の宇宙海賊ギャラクシーエキセントリックエッセンシャルパイレーツだ』と名乗っていたそうなんだ」

「なっ!?」


 それって、ピッセの……!?


「で、でも、30分前だったら、ピッセは俺達と一緒に、スパシーバで働いてましたよ!」

「ああ、俺もそれは百も承知さ。別にピッセちゃんが犯人だと疑ってるわけじゃないんだ。それに言っただろ? 犯人って。窃盗犯は、三人組だったそうだ」

「三人組……」

「一人は中学生くらいの人間の女の子だったらしいんだが、後の二人の内の一人は、下半身が馬になってるケンタウロスみたいな女で、もう一人は、両手がデカいカニのハサミみたいになってる女だったんだと」

「何ですかその異様な三人組は!?」


 だが話を聞く限り、ピッセと無関係とは思えない。

 少なくともケンタウロスとカニの女は、異星人の可能性が高そうだ。

 ただ、ピッセは自分以外のクルーは、全員死んだって言ってたはずだけど……。


「……ピッセにはこの話はしてないんですか?」

「ああ、まだな。如何せん内容が内容だからよ。ピッセちゃんから話を聞くのは、もう少し情報を集めてからにしたい」

「そうですか」


 まあ、それはそうか。


「で? どうだい民間協力者さん、率直な感想は?」

「……正直、まだ何とも言えませんけど……。ちなみに、窃盗事件って言ってましたけど、何が盗まれたんですか?」

「おお、それを言い忘れてたな。それがよ、何とも奇妙なんだが、商店街の福引とかで使う、玉が出てくるガラガラ回すやつあるだろ?」

「ええ、ありますね。は? もしかして、盗まれたのってそれですか?」

「ああ。あと、そのガラガラを置く用のテーブルが一つと、パイプ椅子も一つ盗まれたらしい」

「なんで犯人はそんなものを……」


 まったく意味がわからない。


「……すいません。正直俺には見当もつきません。やはり、ピッセに話を聞いてみるのが一番だと思いますけど」

「ま、やっぱそうだよな。サンキュ、普津沢、参考になったぜ」

「いえ、俺は何もしてないですし」

「いや、お陰で方針が固まったよ。とりあえず俺はイチと合流して、詳しい話を聞いてくる。その後、俺からピッセちゃんに事情を聞いてみるわ」

「そうですね。わかりました、店は俺のほうで閉めておきます。店の鍵は、未来延ちゃんに渡しておけばいいですか?」

「ああ、それでいい。じゃあ俺は行くぜ、後は頼んだ」

「了解です」


 そう言うや否や、伊田目さんは煙の様に俺の前から姿を消した。

 ……流石忍者。

 しかし伊田目さんが言った通り、随分厄介なことが起きてるみたいだな。

 まあ、差し当たって俺にできることは、店を閉めることくらいだ。

 少なくともピッセの前では、いつも通りに振る舞っておかないとな。

 俺はなるべく不自然な態度を取らないように気を付けながら、ホールに戻った。


「お? 先輩、今までどこ行っとったんや?」

「い、いや、ななななな何でもないよピッセ!」

「は???」


 ……。

 俺の下手くそーーー!!!

 一応俺もそれなりに修羅場はくぐり抜けてきてるはずなのに、まるで成長していない……(谷沢)。


「……何や、様子がおかしいのう。何かウチに隠しとることでもあるんか?」

「ギクゥッ!」

「ギクゥッ!?」


 俺のバカァーーー!!!

 いくら図星だったからって、自分の口で「ギクゥッ!」なんて擬音を言うやつがいるか!?

 ……それにしても、相変わらず女の勘のチートっぷりには閉口するばかりだ。

 これ以上ピッセと話してたらどんどんボロが出そうだから、無理矢理にでも会話を切り上げよう。


「そ、そんなことよりもピッセ、伊田目さんは急用ができたそうだから、今日はもう閉店にするってさ」

「え? そうなんか? 何なんやその急用って?」

「さ、さあねー、俺には見当もつかないなー(棒)」

「んんッ??」

「じゃ、そういうわけだからピッセ! 俺は店の看板仕舞ってくるから、お前はみんなに閉店だって説明して、帰ってもらってくれ!」

「オ、オウ」


 脱兎!

 危なかった。

 危うくピッセに不信感を抱かれるところだった(もう遅い)。

 ま、閉店さえしてしまえば今日のところはピッセとはお別れだから、後は伊田目さんが何とかしてくれるだろう。

 俺は看板を仕舞うために、店の出入口から外に出た。


「……おや?」


 そこで俺は、とてつもない違和感を覚えた。

 それもそのはずだ、今は夜の8時くらいなはずなのに、外が異様に明るかったのだ。

 いや、そもそもそこは、俺の知っているスパシーバの店先ではなかった。

 むしろ、何か巨大な建物の中にいるようだった。

 なんでスパシーバ建物から外に出たのに、まだ建物の中に俺はいるんだ!?

 なにこれマトリョーシカ!?(錯乱)

 慌てて後ろを振り返ると、そこには確かにスパシーバがあった。

 どうやら俺だけどこかにワープしてしまったとか、そういうことではないらしい。

 一体何が起きているんだ?

 ここはどこなんだ?

 だがこの建物の構造、見覚えがあるな……。

 そうだ!

 思い……出した!(ワル〇レ)

 ピッセの乗ってた宇宙船だ!

 ところどころに使われてる意匠なんて、そっくりじゃないか。

 てことは、ここはピッセの宇宙船の中なのか?

 でも、あれは沙魔美が壊しちゃったし、もうないはずだよな?

 じゃあここは……。

 いや、ここでアレコレ考えてても埒が明かない。

 伊田目さんには申し訳ないが、こうなった以上は、俺からピッセに話を聞く以外に道はないだろう。

 一旦店の中に戻るか。


「……あれ?」


 ここで俺をまた、もう一つの悲劇が襲った。

 いや、悲劇という程のことでもないのだが、スパシーバの入口の扉が開かないのだ。

 誰か中から鍵を掛けたのか?

 でもその割には、ドアノブさえビクともしない。

 まるで扉だけ別の次元に隔離されたかの如く、こちらからの一切の干渉を、扉が拒絶しているかのようだった。

 今更ながら、何かとんでもないことが起きているような気がして、俺は途端に背筋が寒くなった。


「オイ! 誰かここを開けてくれ!!」


 俺は思わず悲鳴にも似た叫び声を上げて、店の中にいる人達に助けを求めた。


「アラ堕理雄、あなた何やってるのそこで?」

「っ! 沙魔美!」


 沙魔美が窓から顔を出して、俺を怪訝そうな眼で見た。


「え? どこ、ここ?」


 沙魔美も外の異様な光景に今気付いたのか、眼を丸くしている。


「沙魔美! 何かまた良くないことが起きてるみたいなんだ! とりあえず入口を開けてくれないか!? 外からじゃ開かないんだ!」

「え、ええ、わかったわ」

「ンフフフ、無駄よ」

「「!!」」


 聞き覚えのない声がしたので振り返ると、少し離れた場所に、五人の見知らぬ女性が立っていた。


「はじめまして普津沢堕理雄君。私の宇宙船フネは気に入ってもらえたかしら?」

「な、何故俺の名前を……!?」


 俺に話し掛けてきた女性は、背が高くて白衣を着た、巨乳のメガネ美女だった。

 だがその頭には、山羊の様な禍々しい角が二本生えている。


「! ……あなたもしかして、異星人ですか」

「ピンポンピンポンよくわかったねー!」

「!」


 メガネ美女の代わりに陽気に答えたのは、メガネ美女の左隣に立っている、下半身が馬の形をしたケンタウロスみたいな女性だった。

 こ、この人は!?

 よく見れば、ケンタウロスの更に隣には、両手がデカいカニのハサミみたいになっている女性と、中学生くらいの人間の女の子が立っている。

 ……間違いない。

 伊田目さんが言っていた三人組は、この人達のことだ。

 てことは、この人達は、伝説の宇宙海賊ギャラクシーエキセントリックエッセンシャルパイレーツのクルーだってのか?


「何や騒がしいのー。まだ看板仕舞い終わっとらんのか先輩?」


 ピッセが沙魔美の隣から、窓越しに顔を出した。

 それに続いてその他のメンバーも、ぞろぞろと窓際に集まってきたようだ。


あねさん!!!」

「え? …………なっ、ま、まさかお前…………ラオか!?」


 ピッセがメガネ美女の右隣に立っている、五人目の女性に対してそう言った。

 その女性は身体は小柄だが、格好が伝説の宇宙海賊ギャラクシーエキセントリックエッセンシャルパイレーツ時代のピッセにそっくりだった。

 ビキニの水着を着ており、全身はこんがり小麦色に日焼けしている。

 そしてピッセと同じタイプと思われるダボついたコートを羽織っており、右眼には眼帯もしている。

 ただ、相当鍛えているのか、全体的にアスリートの様に筋肉質で、腹筋などはバキバキに割れているのが、小柄な体型に対して、随分アンバランスだった。

 しかし、ピッセとは異なる箇所もある。

 まずピッセの一番の特徴である、耳の部分に付いている、魚のヒレの様なものはない。

 更に三角帽子も被っておらず、その代わり、頭にはライオンのたてがみの様な、立派な金色の逆立った髪の毛が生えていた。

 そして額には、『獅』と書かれている。


「ア、ハハ、姐さんだ……。姐さんだ姐さんだ姐さんだ姐さんだ姐さんだ姐さんだ……。姐さんだ姐さんだ姐さんだ姐さんだ姐さんだ姐さんだ姐さんだ姐さんだ姐さんだ姐さんだ姐さんだ姐さんだ姐さんだ姐さんだ姐さんだ姐さんだ姐さんだ姐さんだ……。あ、姐さーーーん!! 姐さん姐さん姐さん姐さん姐さん姐さああああーーーーーんんん!!!!!!!」

「……ラオ」


 この人ヤベエエエエエエ!!!!

 姐さんのこと好きすぎだろ!?!?

 まっっっったヤンデレかよ!?!?

 ヤンデレは定員オーバーだって、何回言えばわかるんだ!?

 そもそもヤンデレキャラっていうのは、王道のラブコメでいったら、カレーにおける福神漬け的な、メインヒロインを引き立たせるための、サブキャラ的な立ち位置なはずだろ!?

 なんでカレールーが見えなくなるくらい、福神漬けで埋め尽くしてるんだよ!?

 こんなのもう、ただの福神漬け丼だよ!!!(血涙)


「……ラオ、ジブン、生きとったんか」


 !?

 『生きとったんか』だって!?

 てことは、この人はやっぱり、伝説の宇宙海賊ギャラクシーエキセントリックエッセンシャルパイレーツのクルーなのか?


「アー、姐さん……。ホンモンの姐さんだあ……」

「……ラオ」

「姐さんだ姐さんだ姐さんだ……。やっと姐さんに会えたんだあ……」

「……」


 話進まねーな!?

 誰か話通じる人が、代わりに説明してくれない!?


「……ラオッ!!」


 っ!

 死んだと思っていたクルーとの再会に堪え切れなくなったのか、ピッセが窓から飛び出して、ラオと呼ばれているヤベエ人のところに駆け寄ろうとした。

 ……が。


 ガキンッ


「ぐあっ!?」


 窓から出ようとした瞬間、ピッセは見えない何かにぶつかって、店内に弾き返された。


「オ、オイピッセ! 大丈夫か!?」


 俺は急いで窓に駆け寄ったが、どうやらスパシーバの周りを透明な膜の様なものが覆っているらしく、俺はそれ以上窓に近付けなかった。


「ンフフフ、だから無駄だって言いましたでしょ? キャプテン」


 メガネ美女が妖艶に微笑みながらそう言った。


「そのお店は言わば虫かごの様な状態になっています。中からは決して出られないし、外から中に入ることもできません」

「く……誰やジブン」


 え?

 メガネ美女はピッセの部下じゃないのか?

 でもメガネ美女は、ピッセのこと『キャプテン』って呼んでたし……。

 この二人、どういう関係なんだ?

 そういえばピッセはラオって人には反応してたけど、それ以外の四人には目もくれていない。

 ピッセはこの四人のことは知らないのか?


「はじめましてキャプテン、ご挨拶が遅れて申し訳ありませんでした。この度、新しく伝説の宇宙海賊ギャラクシーエキセントリックエッセンシャルパイレーツのクルーになりました、キャリコ・ヴァッカリヤと申します。以後お見知りおきを」


 そう言うとキャリコと名乗ったメガネ美女は、うやうやしく頭を下げた。


「なっ!? 新しいクルーやと!?」

「ええそうです。私達四人は、あなた様の意思に賛同し、伝説の宇宙海賊ギャラクシーエキセントリックエッセンシャルパイレーツの一員として戦うことを志願した者達です」


 キャリコの左隣の三人も、キャリコに倣ってピッセに頭を下げた。


「このフネも、伝説の宇宙海賊ギャラクシーエキセントリックエッセンシャルパイレーツのフネを真似て、私が造ったんですよ。気に入っていただけましたか?」

「そ……そんな」


 ピッセはキャリコの衝撃的な発言に、啞然としてしまっている。


「そうなんですよ姐さん!! キャリコ達が伝説の宇宙海賊ギャラクシーエキセントリックエッセンシャルパイレーツのクルーになってくれたんで、これでもう一度、伝説の宇宙海賊ギャラクシーエキセントリックエッセンシャルパイレーツの名を、銀河中に響かせることができますよ姐さああーーーん!!!!」


 うるせええええ!!!

 君がしゃべると鼓膜への負荷がオオ〇コ半端ないって状態になるから、黙っててもらえないかな!?


「……ねえピッセ、あのラオって人とは、どういう関係なの?」

「菓乃子」


 菓乃子がピッセの袖をクイクイ引っ張って、不安そうに聞いた。


「ウオオオオオイこの地球のメス猿があああ!!! キタネー手で姐さんに触るんじゃねえええ!!!!」

「ヒッ!」


 ラオが菓乃子に向かって、凄い剣幕で怒鳴った。


「よせ、ラオ。菓乃子はウチの大事なダチや。無礼な物言いは許さんぞ」

「ピッセ……」


 ピッセが菓乃子の前に立ち、菓乃子を庇うように言った。


「な! なんでですか姐さん!! なんでそんなメス猿のことを庇うんですか!? オレのほうが絶対絶対絶対に、姐さんのことを愛してるのにッ!!! あれですか? 大方そのメス猿が、ヴァルコねえさんに雰囲気が似てるからですか!? そのメス猿を、ヴァルコねえさんの代わりにしてるんですか!?」

「!」

「口を慎めラオ!!!!」


 今度はピッセが、ラオ以上の威圧感で吠えた。


「!! ……姐さん」

「……ピッセ」

「その様子やと、ジブンももう知っとるんやろ? ……ヴァルコは死んだ。もう銀河中探しても、どこにもおらん。せやからヴァルコのことは、ウチの中だけの、大切な思い出として仕舞っとる」


 ピッセは自分の胸に手を当てて、祈るように眼を閉じた。


「……姐さん」

「よく聞けよラオ。菓乃子はヴァルコの代わりなんかやない。地球この地で新しく出来た、ウチの一番のダチや」


 ピッセは菓乃子の肩に手を回しながら言った。


「……もう、暑苦しいから放してよピッセ」


 そう言う菓乃子の顔は、満更でもなさそうだ。


「そんな……姐さん……。やっと……やっと姐さんが、オレのものになると思ったのに……。姐さん……姐さん……」


 ラオはブツブツと独り言を呟きながら、虚ろな眼を宙に向けている。


「……それよりもラオ、ジブンが生きとったことのほうが、ウチは驚きやわ。どうやってあの状態で、生き延びたんや?」

「それは私からお話いたしますわキャプテン」

「!」


 呆然としているラオの前に、キャリコが出て言った。


「確かにラオは、あの時死にかけていました。でも、私の科学力で、ラオを救ったんです」

「科学力?」

「ええ。私の二つ名を聞けば、ピンとくるかもしれませんね。私の二つ名は、『伝説の科学者マッドブラックハンパナイッテゴート』と言うんです」

「なっ!? 伝説の科学者マッドブラックハンパナイッテゴートやと!?」

「知っているのラ〇デン!?」

「誰がラ〇デンや! 今大事な話しとんやから、茶々入れんなや魔女!」

「だって、話が長いから……」

「我慢せい!」


 俺の彼女は、今日も平常運行だ。


「伝説の科学者マッドブラックハンパナイッテゴートと言えば、少なくとも5000年以上は生きとるっていう、イカレたマッドサイエンティストや。やつの遊び半分の実験で潰された宇宙海賊の数は、優に3桁を超えとるらしい」

「!!」


 5000年だって!?

 今まで長寿ランキングではマヲちゃんの999歳が最年長だったけど、それを遥かに上回る、超超ご長寿じゃないか!?

 チラッと窓際に身を乗り出しているマヲちゃんを見ると、親指の爪を噛んで歯ぎしりをしていた。

 もしかして、最年長者というアイデンティティを奪われたのが、悔しかったのだろうか……?


「……まさかこない若い女やったとは、意外やったわ。その見た目も、科学力とやらの産物か?」

「ま、そんなところです。私は自分の身体もいろいろと弄ってますからね。全身の細胞が劣化することなく、半永久的に再生を繰り返すようになっているんです。不死ではありませんが、不老というわけです」

「……それはそれは」


 かがくのちからってすげー!

 スパシーバを一瞬で宇宙船の中にワープさせたり、スパシーバに透明なバリアを張ったり、やってることが沙魔美の魔法と大差ないな。

 昔有名なSF作家が「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」と言ったそうだけど、まさしくそんな感じだ。

 まあ、大昔の人から見たら、飛行機みたいな鉄の塊が空を飛ぶなんてことは、それこそ魔法にしか見えないだろう。


「……話はわかった。ラオを助けてくれたことは、元上司として礼を言うで」

「身に余る光栄ですわ」


 キャリコは再度、うやうやしく頭を下げた。


「あのラオさんて人は、ピッセの大事な仲間だったのね?」


 菓乃子が依然虚ろな眼をしているラオを気にしながら、ピッセに問いかけた。


「……ああ、ウチとヴァルコに次ぐ、三人目の伝説の宇宙海賊ギャラクシーエキセントリックエッセンシャルパイレーツのメンバーやった女や」

「!」

「ウチの故郷の星でマフィアに誘拐されそうになっとるところを、ウチが助けてな。それ以来、妙に懐かれて、いつの間にか伝説の宇宙海賊ギャラクシーエキセントリックエッセンシャルパイレーツのメンバーに、ちゃっかりなっとった」

「……そうなんだ」

「何かにつけてウチの真似ばっかしよるタチでな。元々は肌も白いのに、日サロに通って日焼けしてきたり、ウチとお揃いのビキニを、ヴァルコに頼み込んで作ってもらったりしとった」

「……愛されてたのね」

「……。せやけど、ある日他の宇宙海賊との抗争中に、ラオは大怪我を負って行方不明になってもうてな……。てっきり死んだもんやと思っとったんやが……生きててくれたんやなあ」


 ピッセは眼に薄っすらと浮かんだ涙を拭った。


「……せやが、昔のラオは、もっと華奢な体つきやったぞ。キャリコとか言ったか? ジブン、ラオに何したんや?」


 途端に鋭くなった眼光で、ピッセはキャリコを睨んだ。


「ンフフフ、なーに、単なるギブアンドテイクですよ。私はちょうど実験サンプルが欲しかった、そしてラオは実験サンプルになってでも生きたかった。ただそれだけです」

「じ、実験サンプルやと!?」


 本当に何でもないことのようにサラッと言ったキャリコに、俺は身体の芯がゾッとするのを感じた。

 どうやらマッドサイエンティストというのは本当らしいな。

 どうりでラオは不自然な程筋肉質だと思ったが、あれは人体実験の成果だったのか……。


「今ではラオは、あなた様よりも強いかもしれませんよ、キャプテン」

「……そのキャプテンってのはやめてくれへんか。ウチはもう、宇宙海賊は辞めたんや。それにジブン程の大物が、なんでウチの下に付こうと思たんや? 今更宇宙海賊なんかになっても、メリットはないやろ」

「ンフフフ、それはこちらにもいろいろと事情があるんですよ」

「……さよか」


 どうやらその事情を、ここで話してくれる気はないらしい。


「でも、悪いけどもう帰ってくれるか。そっちにどんな事情があれ、ウチはもう二度と宇宙海賊には戻らん。ラオも……今は呆けとるようやから、ジブンからもうウチにはこだわらずに、自由に生きろって伝えてくれ」

「そういうわけにはいきませんわ」

「……何やと」

「言ったでしょう? 事情があると。あなた様には、何としても、もう一度キャプテンになっていただく必要があるんです。使

「!」


 キャリコが近くにあるタッチパネルの様なものを操作すると、前方に巨大なモニターが出現した。

 そしてそのモニターには宇宙の映像が映し出されている。

 よく見ると遠くのほうに、地球らしき惑星も見える。


「……何やこれは」

「このフネの外の映像です」

「何ッ!?」


 外!?

 ちょっと待て!

 俺達って今、こんな宇宙空間のど真ん中にいたの!?

 さっきまでは確かに地球にいたのに、一瞬でスパシーバごとこんなところまでワープさせるなんて、下手したら沙魔美の魔法以上に凄いんじゃ……。


「実は地球という星にあなた様がいるということが発覚してから、しばらくあなた様のことを影から観察していたんです。その際に、みんなで日本語も覚えました。まあ、事あるごとにラオがあなた様の前に出て行こうとするのを、宥めるのが大変でしたけど」

「……」


 前のスゴルピオの時もそうだったけど、宇宙海賊はみんなストーキング癖があるのだろうか?

 まあ、獲物を狩る際は事前にしっかり下調べをするというのは、その道のプロなら当然のことなのかもしれないが。


「そしてよくわかりました。あなた様がこの地球という星に、すっかり愛着が湧いてしまっているということをね」

「……だったら何なんや」

「ですからその地球を、と思ったんです」

「!?」


 キャリコが再度タッチパネルを操作すると、モニターの映像の端から、地球に向かって巨大なミサイルの様なものが伸びてきた。

 何だあれ!?


「これは私が開発した、伝説の弾道ミサイルチュドーンボカーンズドドドーンです」

「伝説の弾道ミサイルチュドーンボカーンズドドドーン!?」

「地球の兵器に例えるなら、威力は核ミサイルの5000兆倍といったところですかね」

「5000兆倍!?!?」


 そんなの一発で地球は木端微塵じゃないか!?

 そんなとんでもない代物が、今地球に向けられてるっていうのか!?


「くっ! 卑怯やぞキャリコ! 地球を破壊されたくなければ、ウチにもう一度キャプテンになれとでも言うつもりなんか!」

「いいえ、そうは言いません」

「は?」


 え? そうなの?

 じゃあ、どういうことなの?


「無理強いをしてキャプテンになっていただいても、あまり意味はありませんからね。ですからここは一つ、勝負をしましょう」

「勝負?」

「ええ。今から私達五人と、そちらのチームで、5対5の団体戦を行うんです」

「団体戦!?」

「そして先に3勝したチームの勝利。そちらが勝てば、私達は大人しく身を引きます。ですが私達が勝った暁には、地球は破壊し、あなた様には再度伝説の宇宙海賊ギャラクシーエキセントリックエッセンシャルパイレーツのキャプテンに就任していただきます」

「……それはほとんど、無理強いしとるんと一緒なんちゃうか?」

「ンフフフ、どう受け取っていただいても構いませんよ。確かなのは、あなた様がこの勝負を断れば、私は容赦なく伝説の弾道ミサイルチュドーンボカーンズドドドーンの発射スイッチを押すということです」

「……クソッたれが」

「もういいわ、どいてカマセ」

「ピッセや! ……魔女」


 沙魔美が乱雑にピッセをどかして、窓の最前列に出た。


「要はこいつらを全員ブチのめせば、それで万事解決でしょ? 今夜は観たいアニメがあるのよ。私が全員まとめて、即堕ち2コマシリーズみたいに瞬殺してあげるわ」

「ま、待てや魔女!」


 沙魔美は指をフイッと振った。


 が


 何も起こらなかった。


「……アラ?」

「ンフフフ、言い忘れてたけど地球の魔女さん、その店の中にいる限り、あなた達の全ての力は封印されているわ。これも私の発明の一つだけどね」

「何ですって!?」


 何か前も似たようなことあったな!?

 それってつまり、ピッセが初めて来た時沙魔美に使った、伝説の封印装具ロックロッカーロッケストサンダンカツヨウみたいな効果が、スパシーバ全体に掛かってるってことか?

 だからキャリコは、スパシーバを虫かごに例えてたのか……。


「くっ、道理でさっきからウチも、力が入らんと思とったわ」

「ちょっとカマセ! そういうことは早く言いなさいよ! あなたのせいで凄く恥ずかしい人みたいになっちゃったじゃない!」


 みたいじゃなくて完全に恥ずかしい人だよ。

 すっかり沙魔美も、ポンコツキャラが板についてきたな。


「ピッセや! ……クソッ、悔しいが、ここは言う通りにするしかないみたいやな」

「ご理解いただけて何よりですわキャプテン」

「ちょ、ちょっと待ってくれないかメイドレディ! さっきからボクには、何が何だかワッツハプンなんだが!?」

「そうですよドエイドさん! 俺にもわかるように、マンツーマンで説明してください!」


 玉塚さんと娘野君が、ピッセに詰め寄った。

 そうか。

 この二人はピッセが元宇宙海賊だってことは知らないんだよな。

 娘野君に至っては、沙魔美が魔女だってことさえ言ってない。

 動揺するのも当然だ。

 むしろ、よく今まで黙って事の成り行きを見守ってくれてたよな。


「その点については、私からご説明しましょう」

「「!?」」


 突然未来延ちゃんが前にしゃしゃり出てきた。

 まさかずっと、しゃべる機会を伺っていたのだろうか?


「まあ文字数の都合もありますのでザックリ説明しますと、ピッセちゃんは元宇宙海賊で、沙魔美さんは魔女で、マヲちゃんは異世界の魔王で、多魔美ちゃんは未来から来た普津沢さんと沙魔美さんの娘さんです」

「キミは何を言っているんだいプリティレディ!?」

「そうですよマイエンさん!? ちょっと裏に行って、二人きりでじっくり説明してください!」


 娘野君だけチョイチョイ自分の願望を満たそうとしてない?

 君は本当に、頭の中常にサーモンピンクだな。

 でも確かに、この二人にゆっくり状況を説明してる暇はなさそうだ。

 申し訳ないが、後は会話の流れで察してもらうしかないか。


「……せやけど、団体戦って言っても、何で勝負するつもりなんやキャリコ? こっちは全員力を封じられとる状態で、とてもフェアな勝負なんてできひんやろ」

「ご心配なく。各試合に出るメンバーだけは、その店から出して差し上げますわ。試合会場の中だけは、限定的に力を解放いたします」

「……それにしたって、こっちは戦闘力があるのは、ウチと魔女と魔王と、後は先輩の娘っ子ぐらいやぞ。ウチらのほうが不利やないか」


 正確に言うと、服部半蔵の子孫である未来延ちゃんは、普通の人間の中では相当な戦闘力を持っていると思われるが(クリ〇ン的なポジか?)、それでも宇宙海賊が相手では、いくら何でも分が悪いだろう。


「その点も考慮済みです。試合は何も、戦闘関連のものだけではありません。一試合ごとに種目はクジで決めますが、半分以上は『ボーリング』や『カラオケ』といった、戦闘力を必要としないものにしてありますので」

「ず、随分俗っぽいもんを知っとんのやな……」


 それもこの数日で調べたのか?

 何だかさっきから地球の命運を賭けた大勝負の割には、どうにも緊張感に欠けている感じがするのは気のせいだろうか?

 ひょっとしたらこれも、キャリコの作戦なのかもしれないが……。


「その代わり、そちらのチームは全員試合に出場していただきます」

「は!? 全員!?」

「ええ。せっかくのレクリエーションの場なんですもの。仲間はずれがいたら可哀想でしょう? 普津沢堕理雄君を除いた九人の内、一つの試合につき、そちらは最大五人まで出場することを許可します。六人以上出場を許すと、五試合分の人数が足りなくなってしまいますからね」

「あ、俺は出場しなくてもいいの?」


 それは一安心したと言うか、ちょっとだけ寂しいというか……。


「その代わり普津沢堕理雄君には、一番重要な役を任せます」

「一番重要な役?」


 何だか嫌な予感がする……。


「はい、これを受け取って」

「え? うわっと!」


 突然キャリコが、スマホの様なものを俺に投げてきた。

 俺はアタフタしつつも、何とかそれをキャッチした。


「……何これ?」


 スマホの画面を覗くと、そこにはピッセ達九人の顔写真が表示されていた。


「その端末で、あなたが各試合に出場する選手を選択するのよ普津沢堕理雄君。言わば監督のポジションてとこね。そのために、あなただけは店の外に出してあげたんだから」

「……マジで?」


 それってある意味、選手以上に責任重大じゃん。

 え、待って。

 もしかして今、地球の命運は、俺の手に委ねられているの?

 ……えぇ。

 もういい加減うんざりなんだけどこういうの……。

 本来の俺は、吉良〇影並みに、激しい喜びはないが深い絶望もない、平穏で波の無い『植物の心のような生活』を望んでいるというのに……。


「大丈夫ですよお兄さん! お兄さんなら、安西先生ばりの、名采配を振るえると私は信じています!」

「真衣ちゃん……」


 相変わらず妹からの信頼が重すぎる。

 なんで君は何の根拠もないのに、俺のことをそんなに持ち上げられるんだい?


「……なるほどね。ママの言ってたことは、これのことだったんだわ」

「は?」


 突然沙魔美が意味深なことを言い出した。


「何の話だ沙魔美?」

「初めて堕理雄が私のママと会った日のことを覚えてる? あの時ママは、堕理雄に言ったでしょ? 『あなたはいずれ来る、地球人対、伝説の宇宙海賊ギャラクシーエキセントリックエッセンシャルパイレーツの星間戦争において、キーパーソンとなる男よ』って(※10話参照)。あれはカマセが来た時のことじゃなく、今日のことだったのよ。あの時の堕理雄は、キーパーソンってよりは、ピー〇姫って感じだったものね」

「ピッセや! ……いったい何の話をしとるんや魔女?」


 ……。

 ニャッポリート。

 そういうことはもっと具体的に言ってくださいよお母さん……。

 でもこうなった以上は、俺も命を賭けてやるしかないか。

 46億年にわたって、星の数程の生命を育んできてくれた地球の歴史を、俺の手で終わらせるわけにはいかないからな。

 俺は秘めたる決意を胸に、キャリコに正対した。


「どうやら覚悟は決まったようね普津沢堕理雄君。では早速、第一試合を始めましょう」


 キャリコがタッチパネルを操作すると、キャリコの手前に水晶玉の様なものが降りてきた。

 そして俺の目の前にはテーブルとパイプ椅子が出現し、そのテーブルの上には、福引用のガラガラが乗っていた。

 これってもしかして、さっき伊田目さんが言ってた盗まれた品か!?


「普津沢堕理雄君はご存知みたいだけど、それは今さっき地球で調達したものよ。そのガラガラの中の玉に、各試合の種目名が書いてあるわ。それを普津沢堕理雄君が回して、出た種目で戦うってのがルールよ。こちらが用意した装置じゃ、不正を疑っちゃうでしょう?」

「……」


 やっぱりどこかズレているというか、半分遊んでいるように見えるのは俺だけか?


「ちなみにこの水晶玉は試合会場よ」


 キャリコは手前の水晶玉を、顎で指して言った。


「それが!?」

「こう見えて、この中にはネズミーランド10個分くらいの広大な異空間が広がっているの。この中なら思う存分、互いの技を競い合えるわ。ンフフフフフ」


 キャリコは心底楽しそうな顔で、水晶玉を愛おしそうに撫でた。

 やっぱこの人も、相当ヤベエ性格してんな……。

 気を引き締めていかないと。


「さあ! ではいよいよみなさんお待ちかねの、ショータイムの始まりよ! ガラガラを回してちょうだい、普津沢堕理雄君!」

「……ああ」


 頼むから最初くらいは、平和的な種目が出てくれよ。

 俺は神にも祈る思いでガラガラの取っ手を掴んで、勢いよく回そうとした。

 が。


「あ、そうだ、言い忘れてたわ」

「え?」


 キャリコが急にそんなことを言うので、思わず俺はズッコケてしまった。


「何だよ! 今から回そうとしてたんだから、大事なことなら前もって言っといてくれよ!」

「ごめんなさい。でも本当に忘れちゃってたんだから、勘弁してね。実は私達が勝ったら、もう一つお願いしたいことがあるのよ」

「な、何だよそのお願いって……」


 何だか今日一番の嫌な予感がする。


「普津沢堕理雄君、あなたを私の実験サンプルとして、未来永劫私のものにしたいのよ」

「じ、実験サンプル!?」


 それってつまり、人体実験の道具ってこと……!?

 冗談じゃないぞ!!


「もちろんあなたに拒否権はないわ。実はあなたを一目見た時から、私の探究心がビンビンに刺激されて、身体が火照ってしょうがないのよ。あなたとだったら特別に、研究のために私と子孫を作らせてあげてもいいわよ?」

「いえ、遠慮しておきます」


 なんで俺はいつも、厄介な女の人にしか好かれないんだ!!!(号泣)


「……あまり調子こいたことほざくんじゃないわよ、この5000歳BBAが」


 沙魔美が鬼の様な形相を、キャリコに向けて言った。

 ヒエッ!

 やっぱり沙魔美が、宇宙で一番怖いぜ……。


「そうですよ! お兄さんは誰にも渡しません!」

「そうやな、先輩に最初に目を付けたんは、ウチやからな」

「そうそう、パパをランドセルに監禁していいのは、私だけだからね」

「わ、私も、あなたに堕理雄君は相応しくないと思う!」

「お兄ちゃんは、アタチのお兄ちゃんだから!」

「まだまだ普津沢さんには、SNSのネタを提供してもらわなきゃいけませんからねー」

「ハッハー! ボクとマイライバルは、今後も互いに切磋琢磨すると魂で誓い合った仲なのだよ!」

「師匠! 今度俺に、女の子を紹介してください!」

「……みんな」


 娘野君だけはどさくさに紛れてまた願望を言ってるだけだったが、期せずしてこちらのチームの団結力も高まったようだ。


「よし! じゃあこの勝負、何が何でも絶対にみんなで勝とう!」

「「「「「「「「「オー!」」」」」」」」」

「あ、盛り上がってるところ悪いんだけど、普津沢堕理雄君」


 こちらの空気を一切無視して、キャリコが割り込んできた。

 なっっっんだよ!!

 まだ何かあんのか!?


「この話は長編になるから、いつもなら次話の冒頭に出てくる普津沢堕理雄君の好きな『前回のあらすじ』は、今回はお休みよ。残念だったわね」

「別に好きじゃないけど!?」


 というわけで、初の長編。

 いろいろと不安もいっぱいだけど、第一試合の開始までは、もうちょっと待っててね。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?