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第67魔:さて、どうかしらね

「竜也! コラ! 起きろ! ……って、あれ?」

「おう福与、おはよ」

「なんだ、アンタが自分で起きてるなんて珍しいね」

「まあ、な。俺もいつまでも子供じゃねーしな」

「ふうん。ま、いーけど。あーあ、せっかくムーンサルトプレスの練習してきたのに、無駄になっちまったな」

「練習してくるなよ! どんどんプロレス技が高度になってんじゃねーか!」


 お前はいったいどこを目指してんだ!?


「さてと、じゃ、さっさと支度しなよ。今日は一日付き合ってもらうからね」

「へいへい」


 俺達が高校を卒業して、半年が過ぎた。

 つまりそれは、俺と福与が付き合い始めて半年が経ったということでもある。

 今の福与は実家の植木屋で見習いとして働いており、最近ではすっかり職人姿が板に付いてきた。

 俺は相変わらず三代目夜叉として、代打ちに没頭する日々だ。

 冴子は東京で一人暮らしをしていて、俺達は卒業以来冴子に会っていないが、きっと冴子のことだ、上手くやっていることだろう。

 本音を言うと、冴子が側にいないことに、ふと言いようのない寂しさを覚えることもあるが(何せ人生の大半を一緒に過ごしてきたんだ)、冴子の立場じゃ俺達に会いづらいのは俺も福与もわかっているので、何となくこちらから連絡を取ることに対していつも二の足を踏んでしまっている。

 いつかは昔みたいに三人でまた楽しく遊びたいものだが、まあ、それは高望みってもんか。

 こうやって大切な人との出会いと別れを繰り返していくことが大人になるということなら、俺は一生子供のままでいいとさえ思うが、学校を卒業して手に職を付けた俺達のことを、世間は子供としては扱ってくれない。

 まして俺が身を置いている場所は、喰うか喰われるかの弱肉強食の世界だ。

 こんな甘っちょろい考えでは、いつか絶対に足をすくわれる。

 それはわかってるつもりなんだけどな……。


 俺と福与は去年の今頃毎朝師匠とすれ違っていた廊下を、玄関に向かって歩いた。

 師匠……。

 師匠もこんな風に、数え切れないくらいの人と出会いと別れを繰り返してきたのかな?

 だとしたらやっぱり俺は、技も精神こころも、まだまだ師匠の足元にも及ばないよ。


「竜也」

「……兄貴」


 玄関の前で、兄貴が俺を待っていた。

 てことは、今夜も、か……。


「竜也、今夜も――」

「言わなくてもわかってるよ。相手はどこ? いや、それも言わなくていいや、どうせいつも通りやるだけだし」

「……竜也、あまりこういうことは言いたくないが、最近お前、少し気が抜けてないか? この間も――」

「う、うるせーな! この前のはたまたま調子が悪かっただけだよ! 今日はちゃんとやるから、心配すんなって」


 兄貴の言ってることは図星だ。

 実は最近の俺は、代打ちの勝負中に気が散ることが多くなっていた。

 先日などは明らかに格下の相手に、俺の凡ミスが原因で危うく敗けそうにさえなった。

 途中までの貯金があったため何とか逃げ切れたが、あと数回でも勝負が長引けば逆転されていただろう。

 なんでこんなことになっているのか、原因はわかっている。

 わかっているからこそ、俺はここ最近、ずっと独りで悩んでいた。


「……それならいい。いつも言っているが、うちの組はお前だけが頼りだ。くれぐれも、『夜叉』の名に泥を塗るような真似だけはするなよ」

「……わーったよ」


 その名前を聞いた途端、俺の胸はズキリと痛んだ。

 兄貴も俺がそうなるとわかっていて、敢えて『夜叉』の名前を出したんだろう。


「福与ちゃん」

「ん? 何だいお兄さん」

「福与ちゃんが代打ちの仕事にいろいろと思うところがあるのは俺も知っている。だが、今の桜紋会には竜也が……いや、『三代目夜叉』がどうしても必要なんだ。だから、どうかこいつをしっかり支えてやってほしい。この通りだ」


 兄貴は柄にもなく、福与に深く頭を下げた。


「オ、オイ兄貴! みっともない真似はすんなよ!」

「お前は黙っていろ。俺は桜紋会の若頭として、三代目夜叉の『妻』になるかもしれない人に、頭を下げているんだ」

「!」

「……お兄さん、頭を上げてよ」

「……ああ」


 兄貴は言われた通り頭を上げて、福与の眼をジッと見た。


「心配しないでよ」

「……」

「代打ちの竜也と付き合った時点で、アタシも覚悟は決めてるよ。ていっても、正直アタシは代打ちの仕事事情はよくわかんないからさ。精々アタシにできんのは、将来美味い飯作って、竜也を待っててやることくらいだけど。最近は母ちゃんに教わって、料理も勉強してるんだぜ。まあ、まだまだ冴子の料理の腕には敵わないけどさ」

「……なるほど、それなら安心だ。どうか竜也のことを、末永くよろしく頼む」

「任せてくれよ」


 ……。

 二人の遣り取りを見ていた俺は、心の中に薄暗い靄の様なものが広がっていくのを感じていた。




「なあ竜也、これとこれだったら、どっちがアタシに似合うと思う?」

「ん? そうだな……」


 福与が赤と紺のニッカポッカを、それぞれ両手に持って俺に見せてきた。

 今日は福与の新しい仕事着を、一緒に買いに行く約束をしていたのだ。

 だが俺の頭の中では、先程の兄貴と福与の遣り取りが何度も思い返されていて、全然他のことに思考が割けない。

 しょうがないので俺は、適当に赤のニッカポッカを指差した。


「……こっち、かな」

「今適当に答えただろ、アンタ」


 ギクッ。

 なんでわかったんだ!?

 前から思ってたけど、福与って勘が良すぎじゃね!?

 それとも女はみんなこんなもんなのか?


「今だけじゃない。最近のアンタは、何かちょっとおかしいよ。さっきお兄さんにも言われてたしさ。何かあったのかい?」

「それは……」


 俺は一瞬福与に悩みを打ち明けるべきか迷ったが、意を決して告白することにした。

 福与はどんな顔をするだろうか?

 俺が、なんて言ったら。




 事の起こりは一ヶ月程前のことだ。

 俺と福与は付き合って半年弱経ってから、やっと念願の初エッチをキメた。

 付き合い始めてからも俺と福与はどうしてもそういう雰囲気にはならず(何せ長年男友達のように接してきたからな)、どうしたものかと悩んでいたのだが、ある日福与の家に遊びに行った時に、俺が転んでたまたま福与を押し倒すような格好になってしまい、福与の両親が家にいなかったことも後押しし、まあ……流れでそういうことになったわけだ。

 普段の気が強い福与からは想像もつかないくらい、この時の福与はしおらしくて、可愛かった。

 お互い初めてだったこともあり、それはそれは悪戦苦闘し、クーラーを付けていたにも関わらず、終わった時には二人共汗だくになっていた。

 ただ、この時の俺は、言いようのない達成感のようなものを抱いていた。

 やっと男になっただとか、これからは今まで以上に福与を彼氏として守っていこうだとか、そういった今思えば赤面もののワードが、頭の中を支配していた。

 だが、それ以来俺は、麻雀の最中に師匠の影を感じなくなっていった。

 前までは勝負中は師匠が俺に乗り移ったかのような感覚がしていたのに、その感覚が日に日に薄くなっていったのだ。

 恐らく俺が福与とセックスをしたことにより、『命』というものの存在を、俺が改めて意識してしまったことが原因だと思う。

 もちろん福与とセックスをした時はしっかりと避妊はしたが(長年財布に忍ばせておいたコンドーサン新撰組エディションが、やっと日の目を見た)、本来セックスというのは、生物学的に言えば、子供を作るための行為だ。

 そのことが、命というのは生まれ、そしていつかは必ず消えるものだということを、俺に嫌でも再認識させたのだろう。

 俺は今になってやっと、師匠の死を受け入れられたのかもしれない。

 しかし、皮肉にもそのことが、夜叉としての俺を窮地に追い込んだ。

 ある意味俺は師匠が俺に乗り移ったと自ら思い込むことで、自分を保っていたのかもしれない。

 その幻想が剝がれた俺の前に現れたのは、圧倒的なまでの、残酷な現実だった。

 代打ちという仕事の、苛烈なまでの過酷さだった。

 敗者には死が待っている。

 それだけならばまだいい。

 敗けた側にリスクがあるのは、当然といえば当然だ。

 だが師匠のように、勝者でさえ、時に殺されるリスクがあるというのは、いつかは弾の出てくるロシアンルーレットの引き金を、延々引き続ける行為に等しいのではないか?

 それでも俺が独り身の頃であれば、まだマシだったかもしれない。

 仮に俺が死んでも、俺の両親や兄貴が悲しむだけで済むから。

 でも将来、俺が福与と結婚して、俺達の間に子供が出来たらどうする?

 福与は一生女手一つで、俺達の子供を養っていくのか?

 そんなのは俺には耐えられない。

 あまりにも福与と子供が不憫すぎる。

 そう思えば思う程、俺の麻雀の腕はにぶっていく一方だった。

 このままでは桜紋会と福与、いつかどちらにも迷惑をかけてしまう。


 これが、俺が代打ちを引退しようと思い至った経緯だ。


「……福与、落ち着いて聞いてくれ。実は俺――」

退なんて言わないよね?」

「なっ!? …………なんでそれを」

「わかるよそんなの。アンタはすぐ顔に出るからね」

「……」


 そんなに俺ってわかりやすいのか?

 ……まあいい。

 そういうことなら話は早い。


「ああ、お前の言う通りだ。俺は――」

「いや、それ以上は言わなくていいよ。……よし、やっぱり今日は買い物はやめにしよう。行くよ」

「え? 行くってどこに?」

「いいから」

「オ、オイ!福与!?」


 福与は急に強張った顔をし、さっさと店を出て、そのまま無言でどこかにスタスタと歩いていってしまった。

 俺は頭の中に大量の疑問符を浮かべながらも、そんな福与の後を追った。

 そうして福与が辿り着いた場所は、何の事は無い、福与の家だった。

 何だったんだ?

 なんで福与はただ家に帰るだけで、あんなに真剣な表情をしていたんだ?


「さ、上がってよ。今日は父ちゃんも母ちゃんも、町内会の旅行でトリニダード・トバゴに行ってていないんだ」

「随分マニアックな国に!?」


 あれ? 何だ?

 何故か今俺の頭の中に、『そこはかとないエロスを感じる国』というワードが浮かんできたんだが……?


「何ボーっとしてんのさ? 早く上がんなよ」

「あ、ああ。お邪魔します」


 福与は何を考えてるんだ?

 さっきの異様な雰囲気といい、ただお茶を飲むために呼んだってわけじゃなさそうだが……。

 俺は福与の家に上がり促されるままに福与の部屋に入ると、いつも通り定位置の座布団の上に腰を下ろした。

 福与の部屋にはもちろん子供の頃から何度も上がっているが、最近はこの部屋に入ると、自然と胸がドキドキする。

 と言うのも、一ヶ月前にこの部屋で初エッチをして以来、俺達はこの部屋に来る度にエッチをしまくっているからだ。

 まさに覚えたてのサルとはこのことで、一度タガの外れた若い男女は、貪るようにお互いの身体を求め合っている。

 まさか福与は、今日もエッチしようっていうのか?

 あんな話をした後に?

 今日はそんなつもりはなかったから、俺もコンドーサン新撰組エディションは、家に置いてきちゃったんだけど……。


「じゃ、始めよっか」

「え?」


 そう言うと福与はおもむろに服を脱ぎ始めた。

 ちょちょちょ!?

 やっぱそういうことなの!?


「福与! 悪いけど、俺は今日はそんな気分じゃ……」

「つべこべ言うんじゃないよ。さっさとアンタも脱ぎな」

「で、でも……今日は俺、コンドーサン新撰組エディション持ってないし……」

「そんなもんは必要ないよ」

「は?」


 なんで?


「今から、するんだからさ」

「え……ええええッ!?!?」


 今何て言った!?!?


「ちょ、ちょっと待てよ! なんでそんな話になるんだよ!?」

「あんたがつまんないことでウジウジしてるからさ」

「つ、つまんないことって……。俺は、俺なりに必死に考えて、結論を出したんだぞ!」

「だからそれがつまんないって言ってんだよ。なんで必死に考えて出した結論が、『代打ちを引退する』なんだよ」

「なんでって……。それはお前と、将来生まれてくる、俺達の子供のために……」

「アタシと子供を勝負から逃げる口実に使うんじゃないよ!」

「――!」

「アンタの覚悟はそんなもんだったのか!? アンタはその程度の覚悟で、師匠から『夜叉』の名を継いだってのかよ!」

「……福与」


 いつの間にか福与の眼には、薄っすらと涙が浮かんでいた。


「アタシはそんな薄っぺらい男に惚れた覚えはないよ。アンタも男なら、アタシも将来生まれてくる子供も、それから桜紋会の看板も、全部ひっくるめて背負ってやるくらいのことを言ってみやがれ!!」

「!」


 福与の眼から一粒の大きな涙が零れて、頬に一筋の曲線を描いた。


「……結局アンタは勝負の世界が怖くなっただけなのさ。そこにアタシっていう都合のいい口実ができたから、尻尾を巻いて逃げようとしてるんだろ?」

「そ、そんな……ことは……」


 ない……と、言い切れるのか……?

 確かに福与の言う通りなのかもしれない。

 この一年弱、師匠から夜叉の名を継いで、何度も何度も命を削る遣り取りをして、いつの間にか俺の心は、針金の様にか細く摩耗してしまっていたのかもしれない。

 そこに福与とセックスをしたという事実が最後の一押しとなり、俺に引退という、『逃げ』の選択を決意させてしまったのか……。

 ……でも。


「……福与、お前は俺が代打ちを続けてもいいのか?」

「嫌だよ」

「!?」


 どっちだよ!?


「正直アンタが師匠みたいにいつか死んじまうかもしれないって思うと、夜も眠れないこともあるしさ。本音を言うと、引退してもらいたいって気持ちもある」

「……福与」

「でも、アンタが自分に敗けて、おめおめと逃げてくるのはもっとイヤだ!」

「……」

「アタシはさ、不器用だけど愚直に勝負に向かう、アンタの背中に惚れたんだ。だからさ、引退するなんて情けないこと言わないでくれよ。生まれてくるアタシ達の子供に、胸を張って『父ちゃんは日本一の代打ちなんだぞ』って言えるような、カッコイイ親父になってくれよ」


 福与の眼は涙の流しすぎで真っ赤になっていた。

 その泣き顔を見ていると、俺の暗く沈んだ心の中に、一筋の力強い光が射すのを感じた。


「……福与、ごめんな」

「……」

「そんで、サンキューな。お陰で覚悟が決まったぜ」

「じゃあ」

「ああ、俺はもう迷わねーよ。代打ちの仕事からも、お前と俺達の子供からも、絶対に逃げない。お前と俺達の子供を一生幸せにするって、ここに誓うよ。約束する」

「……いや、それだけじゃまだ足りないね」

「え? ……じゃあ、どうすりゃいいんだ」

「だからさっき言っただろ。今から子作りするんだよ」

「え!? え!? え!? なんでそんな話になるの!?」


 まったく意味がわからない。


「口だけならどうとでも言えるからね。アタシも子供も一生幸せにする覚悟があるってんなら、その証拠に、今すぐ子供を作ろうぜ」

「いや! ……今からはちょっと……。そういうのは、やっぱり結婚してからのほうが……」

「へえー? そう言って逃げるんだ? やっぱさっきの啖呵はニセモノだったの?」

「ぐっ……そんなことはねーけど」

「じゃあ今から子供を作って、アタシを嫁に貰ってくれよ。一生幸せにしてくれるんだろ?」

「…………わかったよ」


 まったく、こりゃ一生尻に敷かれそうだな。


「あ、そうだ」

「ん? 何だよ」


 これ以上、まだ何かあんのか?


「実は高校を卒業する時に、アタシから冴子に一つだけ頼んでたことがあったんだ」

「え、何をだよ?」

「将来アタシ達に子供が出来たら、名付け親になってくれってさ」

「は、はああッ!? マジかお前!?」


 冴子の気持ちも考えろよ!?


「冴子は快諾してくれたよ。アタシは冴子のことは何でもわかるんだ。あれは心から喜んでる顔だった。間違いない」

「……あ、そう」


 福与がそう言うんならそうなんだろうが、つくづく女ってのは俺には理解し難い生き物だな。


「そっか……。冴子はもう名前は考えてくれてるかな」

「それがさ、こないだ冴子に電話した時に、たまたまその話になってさ」

「お前冴子と電話してたのかよ!?」


 そんな話、俺には一度もしなかっただろ!?

 俺は一回も電話したことないのに……。


「たまにだけどね。その時言われたんだ。きっとアタシ達の間に生まれてくるのは男の子だから、男の名前だけ考えたってね」

「へえ……。ちなみに何て名前だ?」

「……『堕理雄』。堕天使の『堕』に、理性の『理』、そして英雄の『雄』で『堕理雄』。どうだ? なかなか男らしい名前だろ」

「……そうだな」


 若干キラキラネーム気味だが、良い名前だ。


「じゃ、そういうことだから、アンタも早く服脱ぎな。今から5回はするからね!」

「お、おお」


 これは長い一日になりそうだ。

 今夜の代打ちの仕事に支障が出なきゃいいけど……。

 ……いや、もうそんな弱気なことは二度と言うまい。

 もう俺は二度と逃げない。

 そうじゃなきゃ、いつかあの世に行った時に、師匠に顔向けできないからな。

 俺がそっちに行くのはしばらく先になると思うけど、じいちゃんとパラパラでも踊りながら、気長に待っててくれよな、師匠。







「……堕理雄」

「……沙魔美」

「終わったのね?」

「ああ、終わったよ」


 長かった親父達の昔話がな。

 これでエピソードゼロとでも言うべき、この昔話も一区切りか。

 まさか最後に両親がデキ婚だった上に、俺の名付け親が冴子さんだったという衝撃の事実がブッ込まれるとは思わなかったが……。

 いや、いつも言っているが、これはあくまでも夢だ。

 事実だとは限らない。

 ただ、俺の生まれた年の両親の年齢を逆算すると、諸々辻褄は合っているのが怖いが……。

 ……うん。これ以上深く考えるのはよそう。


「もしかして、今回の夢は、『子作り』の夢だったの?」

「なっ!? なんでそれを!? もしかしてお前、魔法で夢を覗いたのか!?」

「そんなことしなくてもわかるわよ。だって堕理雄、寝言でずっと『子作り……子作り……』って呟いてたんだもの」

「あ……そうなの」


 我ながら何て恥ずかしい寝言なんだ……。

 でもその寝言は傍からだと、俺がメッチャ子作りしたい人みたいに見えないかな……?


「しょうがないわね」

「ん? 何が?」

「そんなに堕理雄が子作りしたいなら、今からしましょっか」

「したくねーよ! 二代続けてデキ婚とか、勘弁してくれよ!」

「え? 二代続けて?」

「い、いや、何でもない! 今のは気にしないでくれ!」

「?」


 あっぶねー。

 まだうちの親がデキ婚と決まったわけじゃないんだ。

 下手なことは言うもんじゃない。


「ま、もう遅いかもしれないけどね」

「は? 何がだよ?」

「実はさっき寝る前にした時、コンドーサン新撰組エディションに穴を開けておいたのよね。もしかしたら今頃……」


 沙魔美は自分の下腹部の辺りを撫でながら、怪しい笑みを浮かべた。


「え……じょ、冗談だよな沙魔美……? 冗談だって言ってくれよ……」

「さて、どうかしらね」


 沙魔美は無邪気な少女のように、ニッコリと微笑んだ。

 ……どうする?

 ゴミ箱に捨てたコンドーサン新撰組エディションを確かめてみるか?

 ……でも、もし本当に穴が開いていたら俺は……。


 時計を見るとまだ夜中の4時だったが、今夜はもう、眠れそうにないな……。

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